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『W・E・L・L』の感想
投稿者:
香坂
[2010年 03月 09日 (Tue) 23時 59分 49秒] 18歳~22歳 ----
▼良い点
「これが処女作? そんなことってあるのかしらん」というのが第一の印象でした。この水準、作者の小説にかける情熱と技術なくしてなし得ないものです。ああ、私は今ほど「感想は敬体で書け」という規約を恨めしく思ったことはありません。敬体で生ぬるく語るにはもったいない作品です。
とにかくすべてにおいて完徹しているのがこの小説の最大の長所です。人物、設定、文体、物語、道具立て、それぞれが渾然一体となって独自の世界を構成しています。もはやそれ以外に何をかいわんや。
しかし批評を行う以上なにかを言わなければいけないわけですね。野暮ではありますが。
まず誰もが目を見張るのはその文体でしょう。一言でいえば大仰で硬質な文体です。ですがその「硬さ」が世界観と物語を支え、独特の雰囲気を形成しています。そしてさまざまなレトリックもこの文体で初めて可能になるものです。それだけを文脈と関係なく抽出するとどうしても安っぽく見えるので(また感想から先に読む方のためにも)例示は避けますが、能楽の比喩の部分など現代文でできるものとは思えないくらい派手な芸で感心しました。
そして物語のほうも大風呂敷です。それで大いに結構だと思います。伏線を広げに広げ、(今後も)回収して行く手腕は素晴らしいです。複数の軸で動いている集団が一つの到達点に向かって行くさまは圧巻ですし、戦闘場面での詩的で鮮やかな描写も特異で印象的です。覚瑜や松長や赤塚や月読や碧、その他の登場人物も血肉をあたえられたように魅力的でした。それは作者が主要な人物から脇役に至るまで「動機」や「志」をちゃんと描いているからです。
道具立ても、真言密教を初めとする宗教、軍事、中世史や古武術その他が作者の深い造詣と下調べによって準備されていることなど、わざわざ言うまでもありません。
これほどの想像力と構想力、緻密な描写、並みの物ではありません。
はっきり言って独特なくどさのある作品です。この小説は万人に愛される作風とはいえないでしょう。しかし深く愛される小説に違いありません。
▼悪い点
とりあえず、リーダー「……」や「!」の前後に不要な空白がある理由が分かりませんでした。しかし、それは些末事ですのでより重要な点に移ります。以下、「意地の悪い読者があえてあらを探せば」です。
やはりこの作品の長所である「独特のくどさ」に由来する瑕が目につきます。つまり一部の箇所で「無駄なくどさ」を感じたということです。
具体的には、文体のその大仰さに引きずられたかのような印象を受ける箇所がありました。例えば、全体に頻出する指示代名詞の「其れ(の)」は独自の味を出すのに貢献していますが、冒頭などに顕著なようにあまりに短い間隔で使われていると、まるで英文を直訳したような感があります。
ほかにも例を挙げると、「追憶」の章の最後、
「男が其の言葉を、呟く様に口にした」
は「すなわちそれは呟いたのではないのか?」と思ってしまいました。雰囲気を重視する埋め草のような表現より、「男はそう呟いた」とでもして無駄をなくしたほうが論理的かつ一層の雰囲気がでます。そして「前兆」の章の、
「その者は神でありながら多くの者を弑虐する……」
という箇所の「弑虐」という言葉は「下位の者が上位の者を殺める」という意味で、本来の用法ではなく違和感を覚えました。(よく考えると「弑逆」が正しいようですので廣瀬さんの造語かもしれません。言い掛かりになりましたらご容赦願います)
「其の場所に於いて赤塚以外の者が発する事の出来ない『人』の声を赤塚の耳が確かに捉えた。」
「赤塚」は繰り返しの表現になっていますので削るか言い方を変えたほうがよいです。
「松長は自身の慧眼の不明さと……」
これは「誕生」の章からですが、「慧眼の不明さ」というのは「明るいが明るくない」のようで意味が矛盾しています。
そして著述の運びかたでも、一から十までを書きすぎているのではないかという思いが時に残りました。表現が難しいのですが、つまりすべての行動に事前に説明があたえられている気がするのです。その結果としてテンポを損ない、読者の想像の余地をなくしてしまってはいないかと。「書かないことによって書かれるもの」をもっと書くべきです。そして画竜点睛を欠くというか、これはもはや私のわがままかもしれませんが、もう一つ「予定調和」を崩す展開があれば「最高」だったと思います。
あとは修辞法ですが、「右手」の章の単純なリフレインなどは目が滑り効果が薄いです。やはり全く同じ文のリフレインよりも、一部の語句を差し替えるか、対句のような仕立てで微妙に異なった文を繰り返したほうが良いですね。
また個人的な感覚では「運命」の章の台詞、
「燕雀安知鴻鵠之志哉」
は引用とはいえことわざですので、「燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや」で十分な気がします。あるいは地の文の場合は白文(ルビはありますが)にして、会話中では訓み下しにするなどの書き分けもあり得るかもしれません。ともかく人物の口から出ると中国語をしゃべっているようでした。漢文は現代の日本人には外国語同然だと思います。
さらに人物の具体的な容姿についての描写が少ないようです。覚瑜や山田がどんな顔立ちでどんな背格好をしているのか、いまいち頭に入ってきませんでした。
まとめとして。この雰囲気、「くどさ」を薄めたほうがいいと言っているのでは断じてありません。むしろ一層活用すべき長所です。ただその世界観と文体の強烈な力に引きずられるのではなく制御すべき余地がまだある、というのが私の考えです。
それと、予定調和をもっと予感させない方法があるかもしれないという期待を述べておきます。
▼一言
この場を借りて批評が大変な遅参となってしまったことを陳謝します。さらに敬体で文章を書いていると、どうしても及び腰な言葉使いになるのでやたら断定的な「……です」づくしになってしまったこともお詫びします。そしてかかった時間の割りにはこんな短文で申し訳ありません。長々とあげつらうほどの欠点もないし、世の中に褒め言葉のレパートリーというのはそう多くはないのだと正直に言い訳します。
廣瀬さんの筆力に対する期待から無茶なことを書いてしまいました。しかし本当にかなりの段階にある小説です。お世辞ぬきです。絶対に世に埋もれているレベルではないです。(あ、埋もれてませんでしたら失礼!)
ところで私はこの作品をファンタジーに分類しても全然問題ないと思います。ただライトノベル的なそれでも児童書的なそれでもないだけで、立派な幻想小説です。「伝奇小説」と形容したほうがしっくりくるのは確かですが……。
このような作品に出逢えて幸せでした。「面白い」の一言以外不必要です、と廣瀬さんにメッセージを送ろうかと考えたほどです。そういう意味で書く言葉に困りました。
澪はきっと魅力的なヒロインになることでしょう。続きを期待して、お待ちします。
廣瀬 雀吉
[2010年 03月 10日 (Wed) 03時 00分 09秒]
香坂様 廣瀬です。
すばらしいご批評有難う御座いました。私自身気付かぬ欠点をご指摘戴き、大変参考にもなり、又今後の作品の課題を提示していただいた事大変嬉しく思います。
そうなんです。引っ張られてしまったんです。この作品の一番の問題点は作者自身が作品の世界に過剰に引っ張られてしまった事に全てが起因します。
此処の部分は私の肝になるので詳しくは申せませんが、掻い摘んで言うと『情報量の取捨選択』の未熟さにあります。何を書いて、何を書かないか。何を書けば書かない部分の情報を読み手の方々に『後々に』知らせる事が出来るか。
伏線と言う意味ではありません。最低限の情報量で最大の想像力を引き出させる。そういう部分の力に欠けているが為に起こりえた現象です。
勿論香坂様のご指摘のとおり、このくどさにも理由はあります。無駄な表現や隠喩を利用して登場人物の痛みや苦しみを理解してもらう。そうして読み手を自分の世界観に引きずり込む。
『無意識下の意識』に訴えかける為にはどうしても無駄が必要になる。ただ、この話のあまりの主題の強さに引っ張られて最後の方はほぼ制御不能になってしまった感があります。ここは自分自身でも大いに反省すべき点だと思います。
というか、其処を指摘していただいたのが一番感動しました。また『そのくどさを一層活用しろ』という宿題まで戴き、作者としては感謝の言葉もありません。
言葉の意味は …… すいません、私の学の無さが露呈してしまいました。はは、もっと勉強せねば、と思いました。ご指摘有難う御座います。
最後の方は大分言葉を『造って』いるのでアレだったのですが、まさか最初の方にあったとは。ええ、完全に自分の記憶違いです。申し訳有りません。
それと容姿の方は自分の中で完全に出来上がっていて、ついうっかり書き込む事を失念しておりました。というか、これはヤバイ! 今書いてる作品もそういえばそう記述をしてなかった!
うーん。なかなか自分の脳内妄想を文章に転写するという作業は難しいなぁ。ご指摘有難う御座いました。折を見て修正に当たり、その表現を挟ませていただく事にします。
あ、指示代名詞の件ですが、これは、その、自分でも気が付いてはいて、アップする前に修正は試みているのですが(ということは原文にはもっと指示代名詞が多用されている、ということです!)
…… これは多分自分が好んで読んでいるのが海外の作品が多いからかもしれません。分かってはいるのですが …… その辺りは本当に今後の大きな課題かもしれません。というか、自分の理想とする文章形態が其処にあると感じているので今後も精進を重ねたいと思います。
完成したら凄いとは思いますけど、自分でも。
此れだけすばらしいご批評をいただいたのに、『此れだけ』しかご返事できなくて本当に申し訳有りません。本当はもっともっといい言葉が世の中にはある筈なのに、なかなか見つけ出す事が出来ません。
大勢の人に受け入れられるとは自分自身でも思っていませんし、上手いとも思いません。私の手元には高校生の頃に書いた作品(今は押入れの何処かでそれも未完のまま)が未だにありますが、その頃の方がもっと発想が多彩で力強く、何より情熱に溢れていた。
その時には及びませんが、創造の情熱を今一度呼び覚まして私に再び筆を取らせてくれた澪と覚瑜に今は感謝するばかりです。
そして香坂様。本当に素晴らしいご批評有難う御座いました。今後も香坂様の批評を糧として更なる精進を重ねて自分の理想へと一歩でも近付こうと思います。
え、私の理想ですか?
それは、ずばり宮沢賢治 『よだかの星』です。
ではこの辺で失礼いたします。乱筆乱文ご容赦の程を。
廣瀬 雀吉
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とにかくすべてにおいて完徹しているのがこの小説の最大の長所です。人物、設定、文体、物語、道具立て、それぞれが渾然一体となって独自の世界を構成しています。もはやそれ以外に何をかいわんや。
しかし批評を行う以上なにかを言わなければいけないわけですね。野暮ではありますが。
まず誰もが目を見張るのはその文体でしょう。一言でいえば大仰で硬質な文体です。ですがその「硬さ」が世界観と物語を支え、独特の雰囲気を形成しています。そしてさまざまなレトリックもこの文体で初めて可能になるものです。それだけを文脈と関係なく抽出するとどうしても安っぽく見えるので(また感想から先に読む方のためにも)例示は避けますが、能楽の比喩の部分など現代文でできるものとは思えないくらい派手な芸で感心しました。
そして物語のほうも大風呂敷です。それで大いに結構だと思います。伏線を広げに広げ、(今後も)回収して行く手腕は素晴らしいです。複数の軸で動いている集団が一つの到達点に向かって行くさまは圧巻ですし、戦闘場面での詩的で鮮やかな描写も特異で印象的です。覚瑜や松長や赤塚や月読や碧、その他の登場人物も血肉をあたえられたように魅力的でした。それは作者が主要な人物から脇役に至るまで「動機」や「志」をちゃんと描いているからです。
道具立ても、真言密教を初めとする宗教、軍事、中世史や古武術その他が作者の深い造詣と下調べによって準備されていることなど、わざわざ言うまでもありません。
これほどの想像力と構想力、緻密な描写、並みの物ではありません。
はっきり言って独特なくどさのある作品です。この小説は万人に愛される作風とはいえないでしょう。しかし深く愛される小説に違いありません。
やはりこの作品の長所である「独特のくどさ」に由来する瑕が目につきます。つまり一部の箇所で「無駄なくどさ」を感じたということです。
具体的には、文体のその大仰さに引きずられたかのような印象を受ける箇所がありました。例えば、全体に頻出する指示代名詞の「其れ(の)」は独自の味を出すのに貢献していますが、冒頭などに顕著なようにあまりに短い間隔で使われていると、まるで英文を直訳したような感があります。
ほかにも例を挙げると、「追憶」の章の最後、
「男が其の言葉を、呟く様に口にした」
は「すなわちそれは呟いたのではないのか?」と思ってしまいました。雰囲気を重視する埋め草のような表現より、「男はそう呟いた」とでもして無駄をなくしたほうが論理的かつ一層の雰囲気がでます。そして「前兆」の章の、
「その者は神でありながら多くの者を弑虐する……」
という箇所の「弑虐」という言葉は「下位の者が上位の者を殺める」という意味で、本来の用法ではなく違和感を覚えました。(よく考えると「弑逆」が正しいようですので廣瀬さんの造語かもしれません。言い掛かりになりましたらご容赦願います)
「其の場所に於いて赤塚以外の者が発する事の出来ない『人』の声を赤塚の耳が確かに捉えた。」
「赤塚」は繰り返しの表現になっていますので削るか言い方を変えたほうがよいです。
「松長は自身の慧眼の不明さと……」
これは「誕生」の章からですが、「慧眼の不明さ」というのは「明るいが明るくない」のようで意味が矛盾しています。
そして著述の運びかたでも、一から十までを書きすぎているのではないかという思いが時に残りました。表現が難しいのですが、つまりすべての行動に事前に説明があたえられている気がするのです。その結果としてテンポを損ない、読者の想像の余地をなくしてしまってはいないかと。「書かないことによって書かれるもの」をもっと書くべきです。そして画竜点睛を欠くというか、これはもはや私のわがままかもしれませんが、もう一つ「予定調和」を崩す展開があれば「最高」だったと思います。
あとは修辞法ですが、「右手」の章の単純なリフレインなどは目が滑り効果が薄いです。やはり全く同じ文のリフレインよりも、一部の語句を差し替えるか、対句のような仕立てで微妙に異なった文を繰り返したほうが良いですね。
また個人的な感覚では「運命」の章の台詞、
「燕雀安知鴻鵠之志哉」
は引用とはいえことわざですので、「燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや」で十分な気がします。あるいは地の文の場合は白文(ルビはありますが)にして、会話中では訓み下しにするなどの書き分けもあり得るかもしれません。ともかく人物の口から出ると中国語をしゃべっているようでした。漢文は現代の日本人には外国語同然だと思います。
さらに人物の具体的な容姿についての描写が少ないようです。覚瑜や山田がどんな顔立ちでどんな背格好をしているのか、いまいち頭に入ってきませんでした。
まとめとして。この雰囲気、「くどさ」を薄めたほうがいいと言っているのでは断じてありません。むしろ一層活用すべき長所です。ただその世界観と文体の強烈な力に引きずられるのではなく制御すべき余地がまだある、というのが私の考えです。
それと、予定調和をもっと予感させない方法があるかもしれないという期待を述べておきます。
廣瀬さんの筆力に対する期待から無茶なことを書いてしまいました。しかし本当にかなりの段階にある小説です。お世辞ぬきです。絶対に世に埋もれているレベルではないです。(あ、埋もれてませんでしたら失礼!)
ところで私はこの作品をファンタジーに分類しても全然問題ないと思います。ただライトノベル的なそれでも児童書的なそれでもないだけで、立派な幻想小説です。「伝奇小説」と形容したほうがしっくりくるのは確かですが……。
このような作品に出逢えて幸せでした。「面白い」の一言以外不必要です、と廣瀬さんにメッセージを送ろうかと考えたほどです。そういう意味で書く言葉に困りました。
澪はきっと魅力的なヒロインになることでしょう。続きを期待して、お待ちします。