イチオシレビュー一覧

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いざ歌え、猛る血潮と鋼の歌を

  • 投稿者: 赤狼一号   [2018年 06月 07日 18時 31分]
メタルミュージシャン崩れの青年が暗黒時代の北欧に
タイムスリップすると言う異色作。

現代人の青年がバイキングと言う異文化に戸惑いながら、歌を通してその中の同化し戦士として成長する様が生き生きと描かれている。
バイキング時代の伝統音楽とメタルミュージックの組み合わせは現実に存在するが、それを見事に小説にしている。
ヴィンランドサガを思わせるような堅実かつ丁寧な描写はあたかもノルドの風景が目に浮かぶかのようである。
荒ぶる血潮、鋼の煌めき、そして戦場に響き渡る歌。
サガの世界にようこそ。

荒れ狂う大海原と霜降りる大地―そして世界に響く歌

  • 投稿者: 室木 柴   [2015年 07月 11日 19時 41分]
 才能がない。希望がない。金もない。どこにも行くべき場所がない。
 ヴァイキングメタルを愛しミュージシャンを目指すも、深い絶望に包まれていたトオル。突如迷いこんだ霧の闇のなかで、彼は『本物のヴァイキング船』に出逢った――

 ある時は、世界を繋げ夢を魅せ、冷たく人間を飲み込む海を渡り、またある時は王国と家庭を築く場所を与え恵みをもたらし、無慈悲な寒風が吹きすさぶ大地で仲間と暮らす。
 動乱の9世紀。一度は己を見失うも、彼は叫ぶ。歌う。
 世界を――人々の心を、ヴァイキング達を奮い立たせる男の歌を。
 ヴァイキング達は歌に応え、彼と共に過酷な運命の嵐を斧で切り開いていく。

 凄絶な調査による圧倒的リアリティ。最初は難しく感じるかもしれないが、舞台である過去と土地の常識が現代の貴方と異なるため、それだけ。
 読み進めるうちに彼らがまるですぐそばで呼吸し、刃を研いでいるような感覚に陥るだろう。

実に正統派のタイムトラベル作品

某氏の作品にレビューを書いた所、この作品が紹介されていたので、読み始めてみた。

実に面白い、そして丁寧である。

タイムトラベル作品と異世界転生の違いは、タイムトラベル作品には豊かな知識が必要だということ。カレイワラのような北欧神話、バイキングの歴史が好きな人は間違いなく楽しめると思う。

だが、この作品の凄い所はそれらの知識の豊富さではなく(いや、それもあるのだが)「それらを知らない人」にも純粋に読み物として楽しめるところだろう。
純粋に面白い。読み物として面白い。

そして、『世界』が実に生き生きとしている。
背伸びしない主人公を端的に表現しているのに、描く情景は分厚い毛織や、荒削りな家具の手触りすら伝えてくる。

十代の人たちに読んで欲しい作品だ。そして、何より、これから「物を書きたい」と思っている人にこそ、読んで欲しい作品だと思う。

書き続ける力と、情景描写を私は見習いたい。

物語の生命力――海原に響く、諦めない山羊たちの歌

運命を切り開くものとして語られることが多いのは――やはり剣だろうか。
けれども、実際にフロンティアを行く人々が携えたのは、斧であったようにボクには思える。

だとすれば、この物語は「斧」だ。
原野を切り開き、生活の糧を与えてきた道具だ。
現代日本に暮らしていると忘れてしまいがちだけれど、道具はヒトの《意志》が凝ったものだ。
どうしたいのか、どこへ行きたくて、何者になりたいのか――ヒトの想いの、その結晶だ。

そして、この物語は「歌」だ。
見えずに、聞こえて、モノは動かさず、心を動かす《ちから》だ。
切実な伝達――届いてくれ、という強い想いだ。

その強さゆえ、ときにはねじくれ歪んでしまいがちな想いが、見事な冒険活劇に昇華されて、ここにはある。
屈強なヴァイキングたちの世界に放り込まれた主人公:トールには申し訳ないけれど、キミの受難の日々は輝いている。

この物語、オススメするしかない。

豊富な知識で綴られる、ヴァイキングサガ

  • 投稿者: 退会済み   [2013年 07月 04日 18時 31分]
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メタルミュージシャン崩れの青年トールは、人生に絶望していたところ、突如として現れたロングシップに衝動的に飛び込む。九世紀ヨーロッパに転移した彼を、荒々しくも清々しい男の世界が待ち受けていた。


本作はいわゆる流行りの分野ではない。主人公は特殊能力や高い知識を持っているわけではない普通の青年で、更に言えばそれほど若くもない。

しかし豊富な知識でいきいきと描かれる北欧世界の人々と時代は、まるで読者自身が転移したかのようにページをめくらせる。このような作品にあっては過度に優秀な主人公は寧ろ世界観を破壊するだろう。真の主人公は北欧世界そのものである。

しかして主人公に魅力がないわけではない。狂言回し、橋渡しとしての優秀さもさることながら、周囲の価値観に順応しつつも時折戸惑い、望郷の念にかられる彼は等身大の青年であり、読者の、特に大人の共感を誘うだろう。

ご一読あれ。

文責者 秋水
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