感想一覧

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[一言]
硬めの語彙と流麗な文体が、耽美な世界観にぴったりでした。
和風の世界観ですが(時代は明治くらいかな)ゴシックファンタジーと呼んでいい気がします。普段読むのはモダンホラーが多いので、こういった色合いの作品は新鮮でした。日常社会から切り離されているがゆえに味わえる浮遊感というか、良い意味での非現実性というか、たいへん心地よかったです。

師匠の氷雨だけでなく語り手の時雨も性別が曖昧なまま進行するのも効果的ですね(時雨は女性だと終盤に分かりますが)。性別の先入観なしに、美しい恩人への憧れや恐れがダイレクトに伝わってきて、背筋がゾクゾクしました。また、意図的にそのような手法を使っていらっしゃるのかもしれませんが、終始ミクロ的な視点で描かれているのも面白かったです。背景となる世界の説明は潔く省かれ、舞台装置は身の回り半径三メートルくらい。そのかわり視界に入るものは拡大鏡を覗くように精密に描かれていました。特に薔薇細工とそれを作る氷雨の美しさは息を飲むよう。たぶん最も注力なさった箇所なんだろうなあと想像できました。
妖しく美しい薔薇細工の秘密が明かされた時、時雨が弟子に選ばれた理由が分かった気がします。究極の美を追求するには、徹底した唯美主義者でなくてはならなかったのでしょう。それこそ人間の魂を砕いても平然としていられるような。希少な素材を手に入れるために人を殺められるような。希薄な人間関係の中で育った孤児であり、美しい師匠にのみ執着を示す時雨は打ってつけの人材だと思えました。最後に氷雨が姿を消したのは、技術と秘密のすべてを手渡して存在理由がなくなったからでもありましょうが、時雨に愛情を抱いた報いのようにも思えます。弟子でも後継でもなく人間としての時雨を愛してしまったからこそ、職人の座から降りなければならなくなってしまったのではと……。「離れていても、私の半分は君の中にいるのだよ」このセリフ、愛の告白でなくて何でしょう。

こうやって連綿と受け継がれてきた薔薇細工だとしたら、透明な花弁の一枚一枚に歴代細工師の想いが積み重なっているのかもしれませんね。時雨もいつかそういう相手を見つける時がくるのかしらと、切ない余韻が残る作品でした。

  • 投稿者: 橘 塔子
  • 女性
  • 2017年 08月03日 20時58分
感想ありがとうございます。
これをホラーと呼んでいいのか迷う所でしたが、橘さんに新鮮だとおっしゃっていただけて嬉しいです。
過剰なまでに装飾的で煌びやかな言葉ばかりを書き綴り、非現実的な美を表現してみたい……と思ってたので、橘さんにそう評価していただけて嬉しいです。

氷雨と時雨、双方の性別が曖昧なまま話を続けたのは、意図的で、その方が謎めいてかえって怪し気な美しさがでるかな? と思ってました。
おっしゃるとおり、氷雨と氷雨が作り出す薔薇の美しさを一番重点において書きました。
盲目的な時雨の視点からは、それ以外目に入らないのだと思います。氷雨と薔薇しか見えてないから、最終的にその他の物がどうなってもいいような、刹那的な人間になっていく。
仰るように、徹底した唯美主義者の前では、美しい物以外への価値がなくなっていく。時雨が感じる体温が、人としての情を失って冷徹な唯美主義者になっていく一つの印となればと考えておりました。

氷雨と時雨の別れの理由は、たぶん読む人それぞれの解釈の余地があって、私自身はっきりと定めませんでした。
橘さんの導きだした解釈も、とても美しくて、そう読み取っていただけたのかと嬉しくなりました。

「離れていても、私の半分は君の中にいるのだよ」は、まさしく愛の言葉ですね。台詞回しの美しさにも少しこだわったので、一言でも気にって頂ける台詞があったなら嬉しいです。

美しく謎めいた物語の中で、曖昧なまま書かれてない部分を、読者の想像力で補って、物語が何倍もふくれあがるような。そんな話が書けたらいいなと以前から考えていた目標です。
今回その目標に少しでも近づけたなら嬉しいです。

切ない物語が好きなので、切ない余韻が残る作品とおっしゃって頂けたのはとても嬉しいです。
本当にありがとうございました。
  • 斉凛
  • 2017年 08月03日 21時50分
[良い点]
谷崎の「春琴抄」に似た背徳的な雰囲気がうまく作中に漂っています。流麗な文章が続き、読んでいるほうも安心して読み進めることができました。薔薇細工と魂という凝った組み合わせもうまく相まって、少しファンタジーチックに仕上がっていますね。
  • 投稿者: 退会済み
  • 18歳~22歳 女性
  • 2017年 07月20日 01時00分
管理
感想ありがとうございます。
そんな名作と比較していただき、恐縮しますがとても嬉しいです。
物語自体はそれほど複雑な話ではなく、その分文章の美しさに力を込めて書いたので、そこをお褒めいただきほっとしました。
ホラーというより、ファンタジーかな? という感じですが、お楽しみいただけたなら良かった。
  • 斉凛
  • 2017年 07月20日 08時38分
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