感想一覧
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理没殿のサイレントリッチを読み終えた感傷で見てみた作者の投稿小説にまさか別視点があるとは、しかも2年以上前の小説。
何というか理没殿の原点を見た気分
理没殿のサイレントリッチを読み終えた感傷で見てみた作者の投稿小説にまさか別視点があるとは、しかも2年以上前の小説。
何というか理没殿の原点を見た気分
[一言]
題名にある「リチャード」について貧民であることに数行述べ、語り手について貴族であること数行費やし、以下の軸となる一行の、対比構造を補強する。
「 しかし貧民であるリチャードは、そんな私よりもはるかに高名な人物だった。
今や彼の名は偉大なる塔の全域に轟き、知れ渡っているに違いない。
リチャードの生み出す作品には、一貫したテーマがあった。彼の作品はそのテーマ性によって、名を国中に広めたのである。
彼が好んだテーマは“死”。」
芸術家リチャードの説明への移行は非常に鮮やかだ。鮮やかなだけでない。話はすでにリチャードという芸術家の作品の分析に進んでいるのである。ここに作者の腕の熟達を感じる。ところで、円熟した作者が語りたかったのは何だろうか。語り手に作者まで巻き込んだ彫刻作品の批評をさせて、何が言いたかったのだろうか。
近代批評の成立は、個人がアカデミズムとは別の観賞者となる観点から始まったことを思えば、これは、批評的な散文と言う事ができるだろう。正確には、近代批評様式を借りた小説と言えよう。批評は賛歌の形をとることもあり、無論歌い方は自由なのであり、作品を見て何かを感じる彼が生活の中で一つの問題として芸術作品を受け止めるという有り方で、本人の気が付かないうちに、芸術作品の批評の形を借りて、自らを歌い上げることだってあり得る。語り手の作品分析を見てみよう。
「 机の手紙を読み、笑みを浮かべ、グラスの酒を嗜む若い男。
手紙は、きっと恋文なのだろう。男の笑顔と周囲の小道具からそれは察せられる。
酒は一日の終わりの晩酌で、良いものに違いない。真面目なのだろう。身だしなみは整えられ、やや弛緩した雰囲気こそ感じられるものの、彼からは貴族としての気品が感じられる。
髪を後ろに撫でつけ、仕立てのいいスーツを着込み、鼻筋の通った……それは、本当に格好良い男なのだ。
もしも私の胴回りが細ければ、彼のような男になりたいと目指していたかもしれない。それほど出来のいい、素晴らしい彫刻なのだ。
……だが彼の胸は、背中側からザックリと、細身の剣によって貫かれている。」
語り手が注目するのは、彫刻家の腕ではなく、死というテーマであり、「もしも私の胴回りが細ければ、彼のような男になりたいと目指していたかもしれない。」男が、「胸は、背中側からザックリと、細身の剣によって貫かれている。」点である。誰しも生活のなかで死を身近ととらえているものはいない、たいていそういうものは、医者と聖職者の専門分野であって、しかるべきところに封印されているようなものだから。語り手に取って、リチャードの習作は、「秘める大いなる“死”の圧力と、幼少の頃に心に封じ込めていたはずの“死”へと恐怖を思い出さざるを得なかった。」ものであり、死を日常に連れ戻すきっかけであった。
死神は待ってはくれぬ。日常に現れた死は、日々生きる人々にどのような作用をもたらすか。それは次のように言えるのかもしれない、生の意味とは死を前にして強く自己に語りかけるものである、と。
例えば、文官貴族の語り手は、執拗に次のようなことに思い至るようだ。
「そうして私は一息ついてから、再び面倒な執務に噛り付くのである。
凡庸なる私の名を、願わくばリチャードの如く、この国中に広めるために。
私が生きてきた証を、多くの人々に記憶されるために。」
題名にある「リチャード」について貧民であることに数行述べ、語り手について貴族であること数行費やし、以下の軸となる一行の、対比構造を補強する。
「 しかし貧民であるリチャードは、そんな私よりもはるかに高名な人物だった。
今や彼の名は偉大なる塔の全域に轟き、知れ渡っているに違いない。
リチャードの生み出す作品には、一貫したテーマがあった。彼の作品はそのテーマ性によって、名を国中に広めたのである。
彼が好んだテーマは“死”。」
芸術家リチャードの説明への移行は非常に鮮やかだ。鮮やかなだけでない。話はすでにリチャードという芸術家の作品の分析に進んでいるのである。ここに作者の腕の熟達を感じる。ところで、円熟した作者が語りたかったのは何だろうか。語り手に作者まで巻き込んだ彫刻作品の批評をさせて、何が言いたかったのだろうか。
近代批評の成立は、個人がアカデミズムとは別の観賞者となる観点から始まったことを思えば、これは、批評的な散文と言う事ができるだろう。正確には、近代批評様式を借りた小説と言えよう。批評は賛歌の形をとることもあり、無論歌い方は自由なのであり、作品を見て何かを感じる彼が生活の中で一つの問題として芸術作品を受け止めるという有り方で、本人の気が付かないうちに、芸術作品の批評の形を借りて、自らを歌い上げることだってあり得る。語り手の作品分析を見てみよう。
「 机の手紙を読み、笑みを浮かべ、グラスの酒を嗜む若い男。
手紙は、きっと恋文なのだろう。男の笑顔と周囲の小道具からそれは察せられる。
酒は一日の終わりの晩酌で、良いものに違いない。真面目なのだろう。身だしなみは整えられ、やや弛緩した雰囲気こそ感じられるものの、彼からは貴族としての気品が感じられる。
髪を後ろに撫でつけ、仕立てのいいスーツを着込み、鼻筋の通った……それは、本当に格好良い男なのだ。
もしも私の胴回りが細ければ、彼のような男になりたいと目指していたかもしれない。それほど出来のいい、素晴らしい彫刻なのだ。
……だが彼の胸は、背中側からザックリと、細身の剣によって貫かれている。」
語り手が注目するのは、彫刻家の腕ではなく、死というテーマであり、「もしも私の胴回りが細ければ、彼のような男になりたいと目指していたかもしれない。」男が、「胸は、背中側からザックリと、細身の剣によって貫かれている。」点である。誰しも生活のなかで死を身近ととらえているものはいない、たいていそういうものは、医者と聖職者の専門分野であって、しかるべきところに封印されているようなものだから。語り手に取って、リチャードの習作は、「秘める大いなる“死”の圧力と、幼少の頃に心に封じ込めていたはずの“死”へと恐怖を思い出さざるを得なかった。」ものであり、死を日常に連れ戻すきっかけであった。
死神は待ってはくれぬ。日常に現れた死は、日々生きる人々にどのような作用をもたらすか。それは次のように言えるのかもしれない、生の意味とは死を前にして強く自己に語りかけるものである、と。
例えば、文官貴族の語り手は、執拗に次のようなことに思い至るようだ。
「そうして私は一息ついてから、再び面倒な執務に噛り付くのである。
凡庸なる私の名を、願わくばリチャードの如く、この国中に広めるために。
私が生きてきた証を、多くの人々に記憶されるために。」
[良い点]
重い文体での雰囲気味わうのが多分この話の楽しみ方なのではないかと個人的には思いました。
とはいっても中身がない訳ではありません。主人公の中の、姓ではなく、自身の名を誰もが知るように残したいという潜在的な願い。それは、リチャードの作品によってはっきり形になります。それでも自身が凡庸と自覚している主人公は、諦めるのではなく、地道に努力し続けることを選びます。
そして、その上でまたタイトルを見ると、その意味をじっくり考えたくなってきます。色々な意味があるように思えて。
[気になる点]
主人公の目指すゴールは、単純に歴史に自身の名を残すことなのか、リチャードの作品で死を迎える直前のモチーフたちのような自身の理想的貴族像を現実にして自身もモチーフのような終わりを迎えたいのか、はたまた全く別のものか。その辺りが最も気になります。
[一言]
死を作品越しに見て、感じて、それを踏まえて努力し続けるという決断をした主人公のメンタルが実はこの話の中で最も凄いのではないかと思いました。
重い文体での雰囲気味わうのが多分この話の楽しみ方なのではないかと個人的には思いました。
とはいっても中身がない訳ではありません。主人公の中の、姓ではなく、自身の名を誰もが知るように残したいという潜在的な願い。それは、リチャードの作品によってはっきり形になります。それでも自身が凡庸と自覚している主人公は、諦めるのではなく、地道に努力し続けることを選びます。
そして、その上でまたタイトルを見ると、その意味をじっくり考えたくなってきます。色々な意味があるように思えて。
[気になる点]
主人公の目指すゴールは、単純に歴史に自身の名を残すことなのか、リチャードの作品で死を迎える直前のモチーフたちのような自身の理想的貴族像を現実にして自身もモチーフのような終わりを迎えたいのか、はたまた全く別のものか。その辺りが最も気になります。
[一言]
死を作品越しに見て、感じて、それを踏まえて努力し続けるという決断をした主人公のメンタルが実はこの話の中で最も凄いのではないかと思いました。
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