感想一覧

▽感想を書く
[一言]
 人を愛するというのは時に自ら汚れることでもあるし汚すことでもあると思うので、純愛というのはもしかしたら、「純度の高い秘密」なのかなと思いました。周囲はもちろん、相手にも知られてはいけない、秘密の気持ち。なので実体としては、誰も愛さない人生になるのかな。だけど、傍から見れば「そこに何かがある」のが丸わかりなので、「お前は何がしたいんだ、彼女は傷つきながら待ってるぞ」と突っ込みたくなる。

 だけど、秘密というのは手放したら汚れてしまうんですよね。第三者のああだこうだによって。悩ましいところです。
[良い点]
 しっとりとした落ち着いた文章に、ある種の色気があり、同時にねばっこい感じもあって、そこらへんがリアリティを担保していると思いました。
[気になる点]
 まず、純愛をテーマとするには、安易に死を利用している、又は死に依存している、と思いました。

 というか、そもそもこの作品は純愛がテーマなのかすら疑問なのです。それは、彼女が死んだから純愛になったという解釈にもなりえるからです。でもそれは純愛なのか?と。
 むしろ不純に感じるんですね。それは愛というよりも、別の何かに対する後悔ではないか、と。

 もちろん、死に直面して気づく恋もあるだろうけども、この作品の場合、そうじゃない。
 なおさら殺さなくとも成立するわけです。
[一言]
 では、この作品のテーマは何かと考えると、やはりそれは、思春期特有の恋愛に対して素直になれない状況、そしてそれは性に対して社会的にどう立ち振る舞えばわからない個、という存在において、同性同士のメンツを気にして、恋というものに蓋してしまうよくある景色、という所にあるのだと思う。

 で、そうした思春期の同性社会における、異性に対する距離感というのは、身体の変化がおきる時期においてあって当然のもので、そうした性についてまわる下ネタ的な文脈というものも、一つの人間的な要素ではあるわけで、つまり、安易に善悪では語ることはできない。
 が、無垢で潔癖な少年少女にとっては、それは薄汚いドロドロした情感でしかない。

 それは幸田露伴が娘である幸田文に諭したように、人間というのは動物で、繁華街の男どもは盛りのついた犬のようなもので、そうした存在に対してユーモアで対応しないと大変なんだ、みたいな所がある。

 でも、この物語の少年はそれを知らないから、無垢な感情のまま、思うままに自然に反発した。
 ここにおける自然とは、少年が思う潔癖な恋愛観というか、あるべき少年像、つまり、異性にうつつを抜かすようなバカな男ではない、と主張したにすぎない。

 で、それを相手方の少女を傷つけたというのは、相手も又ウブだったからなんだろうが、このウブさというのは、恋愛としてウブというよりも、社会的にウブというべきものだと私は思うんですよ。
 つまり、本当にソレが純愛であるならば、むしろ、そうしたよくあるような障害というのは、障害にすらなりえないハズだからです。

 つまり、この男女に恋愛を阻んだものは、ある種の勘違いも含めた、その思春期特有の男女観であって、そして、その中で恋愛を育むというのは、きわめて繊細さが必要だ、という事が、物語の土台としてある。もっといえば、いわゆる恋愛マンガのひとつの本質ですよ。
 
 で、一度離れてしまって、縁が遠のいて、お互いの関係が遠のいた時に、その関係を修復するためには、なにかしらのアクションをどちらかがしないといけない訳ですけども、それをしないで、ただただ心のうちになんとなく思っている。

 で、彼女が死ぬことで愛していたと確信する、というのはね、純愛というよりも、臆病な男の思慕の念でしかないと私は思うんですよね。
↑ページトップへ