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[一言]
可愛いです!可愛さの表現が上手ですね!
ありがとうございます。ちょっと泣き虫で寂しがり屋だけど誰よりも純粋な子なんです。
  • ヨシオカセイジュ
  • 2023年 05月31日 13時39分
[一言]
 
 まず三話、というか四話、読ませていただきました。 
 少し長くはなりますがご了承ください。

 まず感想を申し上げさせていただくとアンティークの世界、魔法と少年とあとメイドである。
 以下、私の感じた話となりますので、面倒であれば読み飛ばしてください。


 昨今における、いわゆるところの転生系、あるいは冒険系のはなしで西欧が舞台となっていることは珍しくない。公爵家、王家の血筋、あるいはその街におけるレンガ造りの描写などはある程度、中世の欧州の生活をヒントとして組み込み、作品に昇華したものであると考えてもよいだろう。
 ここで本作品と、その他の所謂欧州地方をモチーフにした作品との隔壁を一つ見つけるに至った。
 この物語の場合、時代背景がそう遠い昔の話ではないということころである。
 一寸調べたところ、中世の前期~後期と呼ばれるものは、五世紀~凡そ十五世紀までの長期間が該当する。大方このあたりの時代を組み入れている世界線の作品は多い。
 一方でこの物語は、言ってしまえば至極近代。今では大変親しみのある自動車といわれるものが量産化されたのが1900年あたりで、この物語の年代で言うとすでに昔なじみの形をした車たちがその骨格を大衆の面前に曝している時期になる。移動手段がほとんど馬車であるといった踏襲を見せる前者の『それ』たちに比べて、幾分か私達でも親近感を思わせる時代背景となっているのだ。
 紐解けばすぐに答えが出せる距離。この物語は、そんな身近な欧州が舞台となっている。私たちのいう、アンティークの中にこの物語は存在するのだ。
 閂をひいて門戸を開ければ、鼻先には異国の情緒あふれる香りがあろう。早速、以降からは一話ごとの感想とさせていただく。



 一話、雨の訪問者
 一人の少年が、ロンドン郊外の古城を訪れる場面から始まる。
 イギリスといえば、私だけかもしれないが、なんだか花が平原いっぱいにしているイメージがある。いやもしかするとこれはハウステンボスなどのテーマパークがイメージの阻害をしているだけかもしれないが。
 一面ヒースの美しい花が、とある。季節が違うのもあるだろうが、如何せん雨の影響もあってかこの主人公の来訪をあまり受け入れられてない印象がちょっとある。
 彼は馬車の揺れによる吐き気を抑えるので精いっぱいのようだった。結構リアルなものだと思った。
 意外と馬車による移動の手段は作品的に扱われることが多いが、この吐き気の生じる平衡性の無さを意外と無視されやすい傾向を私は感じている。土場を慣らしただけの、コンクリートもない世界だ。馬車だって車輪はゴム製ではなくごたごたとした木製であろうし、それで道筋は悪路そのものの環境ときた。グロッキーになることは相違ない。
 狭窄的な心境を覚えつつ館にたどり着くなり迎え入れるは執事。なるほど英国紳士の金持ちの館らしい対応である。
 彼の荷物の少なさの一見のやり取りがある。私はここで引っかかりを一つ覚えた。

 異邦の人間が、手荷物だけで渡航してきた。はてさて彼の胸中、うかがい知れんばかりである。



 二話、アーサーの独白
 一人称視点に代わる。アーサー少年の視点に代わると、話が脳内に滑り込みやすい。
 アーサー少年は、日本人の父とイギリス人の母の血の通うクォーターだそうだ。故に姿勢はアジア風の特徴とイギリスの極欧風なパーツがミックスされているらしい。品行方正な感触がする。
 ここでアーサー少年の生来と、近辺の様子が語られる。弱冠十三にして異国訪問をやってのけるとは立派なものだ。私は今ですら国内線のノリ方がいまいちピンと来なくてトランク持ったまま定席にすわったことがある。こんなやつがコロナが流行る前は一人旅をよくやっていたというのだから世界はアホには優しいのだろう。
 ともかく駅で待ち構えた馬車によって通行人がじろじろ見てくるというのがリアルだった。思えばこの年代なら車ももちろん走っているのであって、昨今の如く馬車が車道を渡る様は確かに気にはなる。
 高潔な血の出であることは理解しているが、しかし周りの常人どもは基盤を知らんから無礼にも視線で以て少年を射る。あろうことか忍び声が上がり始める始末。いがいとこの周りの反応は精神に来るものだ。少年の方寸は如何に。

 ここから、ちょっと面白かった表現があったのでいくつか推したい。
 アーサー少年は日本で生まれて日本で育ったので、根性も和風造りなわけである。
 だからこのシャンデリアを見た時に、一々、日本の特有物で以て様子を例えていくところは面白かった。十三歳らしい子供の感性で、スロープ付きの階段の掃除の心配をしたり、大きな絵をたたみ何畳で数えたりなど、十三歳という世間の物分かりに明るくない若い少年の思考に寄り添われて描かれているものと感服した次第である。
 意外とこういった些末な心配りがされてない小説もたまにみかける。年の割に理解力、知識量が多かったり、その逆で高齢の割に世間を知らない、などなどといったものだ。私個人の話ではあるがそれを見るとどうしても服の端をつねられるような引っかかりを感じる。悪く言うと、作者と分身たる主人公が同期できてないというか。
 このワンクッションを置いて、当年代の少年であればこういった思考を持つ、というやりくりがうまいと素直に感心させられる。それだけでうまい表現だと思えるわけである。

 勝手がわからず困る少年をよそに、当館での催しの準備が差し迫っていた。
 ここでようやっと、少年の目的、この渡航の理由が判明した。


 三話、親族会議
 まず読んでこの館における格式というか、所謂欧州のもつ先祖愛に対する解像度が高いと思った。
 想像できる。壁一列に並びたてられた歴代当主の肖像画、そして並ぶその家族写真のように鮮明な絵。ともすればこの館のオーナーも並ならぬ格を持つものと想像される。
 領地を子々孫々守り続けていることをアピールしているようだ、という記述に感嘆した。マジでそういう筋ある。まじで。
 アーサー少年の据わった席は上座のようだ。日本だけなのか世界的にもそういう認知があるのかわからないが、最も権のあるものがこの所謂上座という出口から最も離れたところに座る慣例がある気がする。
 座る瞬間に在頭を下げて礼を言ったアーサー少年に、メイドが驚いた。みのがさぬ、これはイイ表現だ。和洋折衷。
 アーサー少年は、この狭窄的な環境を、鉢の中の金魚と評した。うまい表現である。彼にしてみれば、総てがアウェイである一方、仲間内の白人共が好奇な目で以て舐めずるように見てくるのだから、これは陳情になった気分にならざるを得んだろう。
 当主たる人物が現れた。読み手としても、場にある空気の引き締まる感覚が伝わった。年老いた雄ライオンという表現がまた憎らしい。この男を最も少ない語句で言い表すならば「威厳」ではなかろうか。
 退出するメイド、その中で一人だけ、アーサー少年に微笑んだものがいた。みのがさぬ、これはイイメイドだ。温柔敦厚。
 頭目は低く唸るや、少年の名をすてるように強要。察するに、日本に置いてきた人生をそのまま捨てろと言わんばかりのことである。
 アーサー少年は立腹である。その名は確かに、両親から授かった大事なものだったろうから。


 統括したい。時代背景の特殊性や、それに対する解像度、そういった面が、白飯によく合うつまみに箸をつけたのと同じように次話次話といざなう作品だった。
 実は四話まで読ませていただいた。公平に感想を書き進めるべくして、大体三話、物語の補足がもっと欲しい時は四話と読ませていただいていたが、単純に三話の親父さんの出た行く末が気になって読み進めさせていただいた(四話読了の状態でかかせてもらってます)
 四話における貴婦人の一人の酷い詰りがまた絶妙に解像度が高い。ブリティッシュアクセントという独特の訛り(というか此方が本家なのだろうが)にイギリスの方は誇りというか、並みならぬ熱意を感じるというのが私の個人の感想である。例えるとイギリスで水を発音するとき「ワー、ラー」とすると、画面端からとんできて首を右往左往とひねりつつ「ゥオ、タ」と舌先に涎を絡めて訂正を求めてくるイメージがある。ちょっとこれは偏見が行き過ぎているので褒められる言い方ではないのだろうけれども、とまあそういった謎に現地の味を知り得たような表現がまたとなく楽しく、なるほど英国の理解者の多方に色づいていただけるまでの設定があるとも思えた。もちろんこれは序章にすぎず、作品すべてを見定めた評価ではないために、私はまだ確認せねばならんことがあるだろうが、とかく三話というごく短い中でも読者をアンティークの世界に連れてってくれる良作であると感じた。

 
 さて、感想は、アンティークの世界、魔法と少年とあとメイド、である。
 主題に来る通りの魔法の世界は四話以降だったから、ここからまた個人的に読み進めていきたいと思っている。猫も拝めていない(私は猫が大好きだ)。ネットで答え合わせができる昨今、実存していたものを話の流れに組み込んだ時、事実と異なる様子では如何にしようかとなってしまう気持ちが私にはある。とどのつまり架空でしか話を作れそうにない私ではあるが、この作品には骨董的なリアリティとつじつまの合った世界、あとは、幻想的な魔法が存在できる良い世界線がであろうことを私は感じさせていただいた。

 すごい話はずれるが最後に個人的に好きなブリティッシュジョークをかかせていただきたい。

 a「おい、アメリカでpavement(歩道)ってなんていうか知ってるか?」
b「ああ知ってるさ。sidewalk(歩道)だ」
 a「なんでpavementて単語が在るのに側を歩く、なんて単語作ったんだ?」
 b「知らないのか。米人は歩道がどこかわかんなかったんだよ」
 a「pavementじゃ伝わらなかったのか?」
 b「ああ。だからあいつら、言い換える前は道路の真ん中歩いてしょっちゅう車に轢かれてたんだ」

 米国と英国がこういった僅かな違いで殴り合う好きである。
 もっというと英国特有の汚い紳士感は賞賛に値する。

 大変べんきょにさせていただきました。
 応援させていただきます。
こちらの意図を汲み取った的確で細やかな感想、本当に有難うございます。心の底から感謝いたします。世界が現代よりまだまだ広く、遥かに遠かった最後の時代を舞台に、異なる文化と価値観を乗り越え大切なものを守るために精いっぱい頑張る泣き虫な少年の大冒険にお付き合いいただけたら幸いです。これからもよろしくお願いします。
  • ヨシオカセイジュ
  • 2022年 10月12日 01時17分
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