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太宰が手紙を受け取った作家を無学無思想と断ずるのは、「このイエスの言に、霹靂を感ずる事が出来たら」という作家の言葉に潜んだ傲慢に対してでは無いかと思います。
近代日本は歪な形で急激に表面的に近代化したに過ぎず、西洋思想の核であるキリスト教を受け止めて消化するという事が殆どできていない訳で、そんな国に生きて来た人間が本質的な意味で「イエスの言に霹靂を感ずる」ことなどできる筈がないという事です。
寧ろ西洋と向き合って考えに考え抜いた者ほど小林秀雄のように「キリスト教は分からない」という境地に至るのが必然でしょう。
しかし時代は戦後で「色と欲」が全てになってきており、西洋は放置され、せいぜい戦前に憧憬する程度でしかなかった。
そんな中太宰は戦後とも維新後とも維新前ともはっきりとは接続できずキリスト教もよくわからない状況で、せめて彼なりにキリスト教を噛み砕こうとしたのでしょう。
突然湧いて出たような近代化を一度すべて否定し、自分なりに西洋を噛み砕いて日本の中で止揚させようと努力したのではないかと思います。
太宰のエッセイは教養に溢れている一方で小説は若く幼稚な所が感じられるものが多いと感じますが、一人でキリスト教や西洋に立ち向かおうとすると必然的にそうならざるをえないという事だと思います。
なお坂口安吾も隠れキリシタンや島原の乱に深い関心を持っていたようですが、彼もまたキリスト教を彼なりに噛み砕こうとしたのかもしれません。
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