感想一覧

いかにも、普通の人間としての生活から、だんだんと不気味に不可解な環境に巻き込まれている感じが、何とも言えない恐怖心に煽られるような………主人公の感情とリンクさせられる描写に、不思議と惹かれるものがございました。

ファンタジーでありながらも、どことなく不気味な世界観が醸し出されているところが、ホラー要素を感じ魅力的な作品です！

物語は「湖底からの声」「視線の気配」「飛び降り未遂」といった不穏な兆候が積み重なり、読者にじわじわとした恐怖を植え付ける構成になっています。特に、ドルジの「優れた聴覚」という設定が効いていて、空耳かどうかという微妙な疑いが事件のリアリティを増しています。また、勘十郎の提案がやや大胆ではありますが、彼の水泳スキルという説得力のある動機づけがなされており、唐突さは感じません。先生という謎のキャラクターをはじめ、登場人物も個性的で、群像劇としての広がりも期待できそうです。

リアルな退職後の不安と、それを癒す友情、そこから思いがけない出会いへと繋がる展開がとても読みやすく、自然と主人公・玲香に感情移入できました。何より、最後の「安倍庵＝少年」オチが見事！読者の予想を良い意味で裏切り、次の展開を見たくなる強いフックになっています。言葉遣いや心理描写も自然で、特に凛との会話はほっとする温かさがありました。