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[良い点]
全編に渡って流れるどこか不穏な空気と、行間に漂う猥雑さが色街の「陰」を上手く表現していると思います。
世界が世界だけに、容赦のない表現で紡いでいっていただけたら嬉しいです(笑)
[一言]
「翡翠の環」は吾妻さまを知るきっかけだった作品でした。
なかなかまとめて読む機会がなく、今作だけでも感想を寄せていただきます。

もともと三国志や西遊記などが好きなので、やはり中国史に材を得た作品には興味がありました。貂蝉の名が出てきたときには思わず唸ってしまいましたが(笑)

こういった物語は多く男性的/男性視点であることが多いと思います。遊郭とは大抵、男のための場所であるからです。しかし本当に語られるべきは女性のはずです。京極夏彦氏の言葉を借りるなら、自由恋愛を売春とくくってしまう男では意味がないからです。

今も昔も、歴史のあるいは世界の暗部に属す彼女たちの生きざまに注目しています。


  • 投稿者: 退会済み
  • 2013年 01月21日 03時56分
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濡羽さん

お返事遅れましてすみません。
拙作へのご感想どうもありがとうございます。

本編は韓邦慶の「海上花列伝」にヒントを得ていますが、これは確かに男性作者による男性視点の遊郭物ですね。

この作品の冒頭には「妓楼通いをしばらく続ければ、眼前の艶やかな美女が実は夜叉のようなおぞましい心を秘めていることが自ずとお分かりになるでしょう」(大意)といった作者本人の戒め的な語りが入っており、明らかに同じ男性を読者に想定して書かれた作品と分かります(当時の文学作品は書くのも読むのも知識層の男性が主体でしたから、当然と言えば当然ですけどね……)。

この「海上花列伝」には妓女本人の悲劇も確かに描かれていますが、そこには「売春を生業にする女は不幸になって当然」という男性の哄笑的な目線もどこかに感じられます。

これとは別に遊女本人が主人公で女性目線の作品もむろん古今東西数多く存在しますが、最近は「もともと美人で野心のある女の子がトップの花魁を目指す」式のストーリーが多いので、本作では敢えて逆のタイプをヒロインにしました。

姉芸妓たちと比べて人目をそばだてる美貌もなく、肉体的な快楽に目覚めたわけでもない、そもそも妓女としての人生に何の希望も抱いていないヒロイン。

男性たちの争奪の対象となる極上の美女でなければ淫乱な毒婦が幅を利かせる、男性目線の遊郭物では到底ヒロインにはなりえないタイプですね(苦笑)

ただ、そうしたいわば落第点の妓女だからこそ痛切に感じ取れる花街の欺瞞や哀しみを描いていきたいと思います。

P.S.
中国四大美女のうち、貂蝉だけは羅漢中の創作の人物であり、また、歌妓という一種の奴隷的な身分である点に着目して、本編では翠玉の部屋に絵を飾らせました。
[良い点]
中国を舞台にした小説を読むのは初めてだったのですが、驚くほどすんなり受け入れることができました。
西厢記の説明など、あまり中国の文化に詳しくない人でも「あぁ、なるほど」と理解できる親切な文章に好感を持ちます。

さらに、客の男たちの嫌ぁな感じの描写がうまいと思いました。
それだけに、今までの客と違う潘さんの動向が気になります。
[一言]
これからどうストーリーが動いていくのか楽しみです。
頑張ってください。
夏川さん

拙作へのご感想どうもありがとうございます。

「舞台となる清の時代はもちろん、中国文化全般に詳しくない人にも読みやすい文章にしよう」と心がけていますので、
その辺りを汲んでいただけて嬉しいです。

「西廂記」は中華圏では芝居の演目になるほど有名なお話ですが
(日本で言えば『落窪の姫君』に似た話です)、
大方の日本人には馴染みが薄いので、敢えて説明を入れました。

「西廂記」のヒロイン崔鴦鴦は侍女の紅娘にかしずかれる深窓の令嬢ですが、
本編の翠玉はいわゆる飾り窓の女であり、しかも妹分の青瓏にすら軽んじられている状況ですから、
そんな皮肉を出したかったのもあります。

清末上海の花柳界は日本の吉原にも似た階層を持っており、
「長三(ザンセ)」と呼ばれる一等芸者は、日本の花魁に該当し、
彼女らの客層は必然的に上層男性に限定されていました。

しかし、翠玉や青瓏たちはそれより一等下の「麼二(ヨニ)」と呼ばれる二等芸者であり、
このクラスの客層には「長三」の下に通える富裕層もいましたが
(同じ客が『長三』と『麼二』の両方に通うパターンも少なくなかった)、
中流以下の男性が身銭を切って遊ぶ場合もあり得ました
(それこそ、姉芸妓の下に通っていた役人から博徒、ゴロツキの類まで様々)。

ちなみに「麼二」の下には、「人家人(ニンカニン)」と呼ばれる私娼(素人を装い自宅や安宿で秘かに客を取るためこう呼ばれる)、
最下層の街娼である「野鶏(ヤチ)」等、娼妓自体にも厳然としたヒエラルキーがありました。

一等芸者の「長三」には接客を拒否する権利も認められており、
「麼二」でも曲がりなりにも芸を身に着け、一応の誇りは持てる境遇だったので、
その意味では翠玉も妓女としては恵まれた部類です。

ただ、究極的には「色」を売る仕事ですから、
日々、男性の醜い部分を嫌でも目にせざるを得ないのです。

まして、アヘン戦争に清が敗れ、租界となった清朝末期の上海には、
特に社会不安が広がっており、糜爛した空気が蔓延していました。

翠玉が潘に鴉片を吸うか尋ねるのは、当時の妓楼では、酒と女に加えて麻薬を嗜好する客が少なくなかった為です
(妓女にも鴉片常習者が多かった)。

潘との出会いが翠玉にどんな運命をもたらすかは、今後にご注目下さい。
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