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Xより参りました。

 とても印象に残る短編作品でした。
 読み進めるほどに、「怖いものを描こうとしている」というより、作者自身が“越えてしまった境界”を必死に言葉にしようとしている感触が伝わってきて、そこに強く共感しました。

 この物語の怪異は、正体が説明されないまま進みますが、その曖昧さこそが一番怖い。
 横断歩道も、集落も、「何かがいる」という確信だけが積み重なっていき、理屈では追いつけない不安があたし自身の中に残りますした。
 それはまるで、現実で「これは踏み込んじゃいけなかった」と後から気づく瞬間そのもののようでした。

 特に胸に刺さったのは、ナリヤマの「変わりたかっただけだった」という言葉です。
 誰かに背中を押され、良かれと思って一歩踏み出し、その結果もう戻れなくなる――
 この構図が怪談でありながら、現代の生き方そのものを映しているように感じました。
 だからこそ、彼の末路も、語り手が同じ境界に足をかけてしまう流れも、とても自然で、逃れられないものとして響きました。

 最後に真実を説明せず、「フィルムに写っていた」という形で終わらせた点も、とても作者らしい選択だと思います。
 理解はできないけれど、確かに見てしまった。
その後も消えずに残り続ける感覚こそが、この作品の一番の恐怖であり、余韻でした。

 読後に残ったのは、怖さ以上に、「誰でも同じ場所に立つ可能性がある」という静かな不安と、それでも書かずにはいられなかった作者様の誠実さです。
 
 あたし自身は、怪談の類は苦手なタイプになりますが、それでも思わず引き込まれる。そんな不思議な魅力を感じました。怪談としても、人の弱さを描いた物語としても、とても強い一編だと思いました。
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