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[一言]
 掲示板より参りました後藤です。相当お時間いただきつづけている状況ですがとりあえず感想に入ります。

 まず、最初に印象を申し上げます。この作品は残念ながら読みにくく、同時に悪い方に読みやすい作品でした。その理由として、①印象を伝え切れていないこと、②状況説明が不十分、③登場人物の設定が必要最低限、④展開が素直すぎるなどの問題です。
 前者二つが読みにくさ、後者二つが悪い意味の読みやすさに繋がっています。
 では、順番に。

①印象を伝え切れていないこと
 実を申し上げて、私は香月氏の印象を最初捉え違いました。確かに人なつっこいと書かれてはいました。ただ、台詞が短いものが多く、死体を前にしても比較的冷静に見え、どこか落ち着いた印象の人物のように捉えてしまっていたのです。
 そのため後に徐々に露出が増えていく段階になって徐々に印象が固まってくるにしたがって違和感を覚えた次第です。
 その原因として、台詞の印象がまず挙げられるように思われます。文を短く区切り表現として端的。そのことが余計なことは話さない人物のように印象が設定されてしまった理由の一つではないかと考えています。
 作中から得られる印象からなら、冒頭の場面、もう少し取り乱す、あるいは短くとも砕けた表現を意識された方がよいように思われます。
 おそらく作者さんご自身としては人物像として十分な情報を開示されたおつもりとは思います。予備知識がない読者としてはまだどんな印象であるのかわからないうちに、どうとでもとることができそうな仕草だけを並べられても困惑させられてしまう印象です。
 できるだけ最初のうちはどんな印象を伝えたいかの意識が必要に思え、残念ながらこの作品はその点がまだおざなりにされてしまっているように思えました。


②状況説明が不十分
 この作品はお話になかなか入りにくかったように感じられたことを覚えています。冒頭の場面がやはり問題です。
 木に絡みつかれた死体。読者としてはそれがどのようなものかわかりません。誰かに殺されたのかも、事故なのかも、ただ生長した木が死体を包んだだけなのか、それとも木が絞め殺したのか。まったくわからない状況です。
 そんな中、人ではないらしい二人が何か話をしている。ここで問題は、それがどのような意図の会話であるのかわからないということです。読者としては、一人が何か深刻そうで、もう一人は覇気が感じられない。一体この二人はどんな関係なのだろう。何か死体と関係があるのかないのかもわからない。そういう展開が続いているように感じられます。
 このことが二つの問題を引き起こしています。既出の問題です。
 香氏が人なつっこい少年には見えない。作者参としては、それくらい深刻な場面だからどうしてもいつもの雰囲気を出せる場所でなかったという思いがあったのかもしれません。読者の視点--あくまでも私の場合ですが--になおすなら、そもそも死体が何なのかもわからない状況からスタートしなければなりません。
 ネタバレになってしまうかもしれませんが、その死体は木によって殺されたものでした。となると、二人の話は、殺人者になぜ殺したのかと問いつめるという重要な内容であったということになります。だから普段の様子を出すことができなかったと繋がる訳です。しかし、問題として読者としてその死体の正体がわからないと仮定してください。登場人物の会話はよくわからない内容、死体の意味もわからないという状態なのです。
 となると、深刻な状況だから普段と違うという印象だという説明は成立しません。読者として登場人物の印象がまとまらなくなってしまうということになりかねません。
 次に、そもそもスタート・ダッシュに完全に失敗している危険性もあるのです。
 この街では木が人を殺している。そんな印象がないまま読み進めるとしたらどうでしょう。何かが人を襲っている。しかしそれは何かわからない。森の中に何か潜んでいる。それがどうやら冒頭の一人であったらしい。ではこの人物は何者だろうか。そんな手探りの状況でお話を押しつけられてしまっているような状況に思えてしまう危険性があるのです。
 白状しますなら私の場合、白樹氏が人を殺しているという設定を読みとることができませんでした。何か死体に関わっているということは理解していたのですが、まず木が人を襲うという予備知識の構築に失敗してしまったのです。となると、後は非序にお話が読みにくい。こちらを置いてけぼりにして納得している作中の人物だけでお話が進んでいくからです。
 こんな点も、読者にどんな情報を与えておけばいいかという観点の不足ではないでしょうか。
 冒頭の場面、どうとでもとれる印象でした。確かに木が人を殺しているとも読めますが、しかしそれがはっきりと言及されていない以上、こちらとしてはあくまでも可能性の一つという印象です。ところが、作中の登場人物たちは確信している。そんな剥離が読みにくさの理由ではないかと。
 冒頭部分の情報に関して手直しがあった方がよいように思われます。


③登場人物の設定が必要最低限
 これはとても難しい問題です。小説は設定紹介であってはなりません。直接物語に関係のない設定を並べられてもそれは余計な情報以外の何者でもないからです。
 ただ反対に必要最低限の情報しかないと世界観に厚みがでません。ちょっとした小細工が必要になります。小道具と言ってもいいかもしれません。その人が現実的に存在しているように感じたもらえる工夫というものが必要だと考えるのです。
 それはたとえば過去のお話かもしれません。登場人物はもちろんそのお話の中だけの存在ではありません。それぞれの人生を歩んだ末、たまたまその物語の現場に居合わせたというだけなのですから。そう考えた場合、登場人物にはそれぞれ当然のように過去があります。それは別に暗い過去である必要はありません。ちょっとしたその人の人生を感じさせるものであればいいのです。
 もちろん、とってつけたように過去の話を登場させることは許されません。余計な情報にすぎず、場合によっては周囲の同情を買うためだけのとってつけたような過去だと揶揄されかねないからです。
 結局、物語にある程度関わる形で登場させる必要があります。この場合、事件と何か関係のあるような大きな過去である必要はありません。それどころか物語本編とは関係ないようなものでもかまいません。ちょっとしたお話程度で十分です。でも何か、その人物がこの見えている範囲以外の人生を生きてきたことを印象づけるものであって、それが不必要な設定にならない程度のものにとどめる。
 そんなちょっとした世界観の厚みを増やす工夫が必要に思えます。このままですと、世界に奥行きがあるように思えないのです。


④展開が素直すぎる点
 失礼ながら、だいたい十話くらい読んだところで展開が読めました。失踪した議員の娘のきな臭い噂、何か関係を持つ印象の少女、妖怪と姫君の悲恋。おそらく多くの人はこれだけの情報並べられればだいたいの展開が掴めます。
 反対に、噂がただの噂、少女はたんに通りかかっただけ、悲恋もあくまでもおとぎ話なんてことであったら反対に設定過多です。ここでも結局のところ、必要な設定はすべて出して、不必要な設定は最低限にとどめるそんな観点が重要です。
 このお話の場合、必要な設定しかそろっておらず素直。ミスリードたしいミスリードもない。そのため無意味な設定こそないものの、反対にお話が読みやすい。小説としての完成度は決して低くない反面、物語としての面白味に欠けてしまっているように思えます。
 また悪いことに展開がひじょうにベタです。
 小説として、このお話は決して悪くありません。設定も展開も丁寧で、起承転結しっかりしています。小説として評価すべき点は決して少なくありません。問題は、その評価が作文としての評価にすぎないと言う点です。物語として見た場合、やはり見過ごせない問題がたぶんに含まれています。
 ありがちな陰陽師の設定や、議員の娘だから悪いことをしているというようなステレオ・タイプの人物設定、小説としての体裁が整いすぎていることから無駄な人物などいない、ほとんど出番のないキャラクターの役割まで早い段階から疑われ結果、展開が読まれてしまう。簡単に並べるとこのような問題があります。
 実はこの問題こそがこの作品を貫く大きな問題であるようにも思えます。
 まず、キャラクター像が薄くなってしまうこと。キャラクターの記号化という由々しき自体を招いているからです。私もモブ・キャラだからとついやってしまうことですが、型にはめたインスタント生産の登場人物になってしまっています。多少ネタバレになってしまいますが、議員の娘、握りつぶしたい何かとくれば大概いじめだとすぐにわかります。
 実在する人物として捉えられるかではなくて、創作物御用達のご都合主義で作られた非現実的な存在のように思えてならないからです。少なくとも私には展開が読めてしまうことに加え、所詮作られた存在であると意識させられてしまい、お話に入り込めなかった印象です。
 議員の娘だから凄腕陰陽師が調査を開始した、そんなように設定にも活かす工夫は評価できる点だと考えています。
 そして設定がありきたりであると言う点です。この作品の場合、作品として見た場合、読みにくさこそありましたが、展開そのものはよくまとまっています。各登場人物の役割も明確で無駄のない印象です。問題は、それはこの作品単独で見た場合の評価であるということです。
 設定そのものに目新しいものがありません。言い換えるなら、別にこの作品でなくても読めることの羅列であるということです。こう考えた場合、それをどれだけうまく書いても読者にとってはすでに見たことのある展開の焼き増しを見せられているように感じられてしまう危険性があるということです。
 この作品そのものは完全に新作ながら、どこかで見たことのあるような設定と展開ですでに読んだことのある本を読み直しているかのような印象を与えかねないということです。悪い言い方をするなら、最初から飽きられた状況から読み始めてもらうしかないような危険性がこの作品にはあるということです。
 まとめるなら、この作品は冒頭部分は読みにくく、しかし一旦設定が掴めてしまうと一気に読みやすい--展開を看破されてしまうという意味です--作品になってしまいます。
 失礼ながら、この作品を一言で言うならこんな作品です。
 誰にでも書けることを丁寧に描いた。
 そのため作文としての評価は決して低くはありません。展開が丁寧、キャラクターの役割も明確、うまくまとめられているからです。
 しかし物語として見た場合、端的に言って得るものがありませんでした。


 まとめます。
 まず書き方としてどんな情報をいつまでに与えればいいかという観点がまだまだ弱い。そのため物語に入っていきにくいことが冒頭の読みにくさを助長してしまっているように思われます。
 設定の作り込みが足りていない点は問題です。登場人物が物語の中だけの人物に思えてしまい人物像に厚みが足りていません。
 そのためか展開が安易。この作品だからこそ読める特徴というものが弱いように思われます。
 ミステリーの場合と同じです。意表を突くミステリーなんて簡単に書くことができます。本当に最後の最後まで犯人を登場させず、いきなりこれまでに名前も出てこなかった人物を真犯人にしてしまえばよいからです。ただこんなことは許されません。ミステリーに限らず物語は、読者に予想できるだけの材料をすべて与えておいて、なおそれを裏切ることを求められるものだからです。
 展開を読まれては意味がなく、荒唐無稽では仕方がないのです。
 この作品の場合、小説を読んでもらうという観点が弱いことが問題です。そのため、冒頭でキャラクターや物語がうまく伝わっていないように思われて、物語では読者をだましてやろうというずるさがありません。そんな意味で小説の書き方が素直すぎるように思われます。
 小説家は、腹黒く根性の腐った人が選択する職業です。
 さあ、お前等、展開は読めるか、きっとこう考えてるんだろうが、実はそれはこう解釈するんじゃなくてこう、展開はこうなるんだよ。さて、何人ひっかかったかなぁ~。
 と腹の底では考えておきながら、読者のみなさんは小説家にとって宝物です、なんて言うことのできる人間だけがなることのできるものなのです。
 少なくとも私の場合、展開だけは読まれまいと腐心しています。まあ、そのため展開がいきなりだと言われてしまったこともないではありませんし、設定が複雑すぎるせいかなかなか全部を読んでくれる人にも恵まれません。ただ展開だけは読まれたくないという思いで小説を書いています。こんな考えの一小説家から見た場合、この作品は素直すぎました。
 もう少し技巧的であったり読者をだましてやろうというずるさや、自分だけに書けるものを見せつけてやろうというエゴイストな一面があってもよいように思われます。
 小説=作文+物語として場合、作文に注力されすぎているように思われます。そのため、作品としては丁寧で心理描写もよく描けている反面、その肝心の描写さえまるで他にも見たことのあるもののようで飽きというフィルターを通してしか見てもらえない。そんな非常にもったいない印象なのです。
 二つの意味で読者をより意識すべきかと考えます。どんな情報があれば読みやすいかと考えて、どんな展開だと読まれやすいかと考えるのです。すなわち、腹の底では小馬鹿にしながら表では読者が一番のように振る舞うということです。
 そんな観点が不足してるという意味において、この作品は素直すぎるように思われます。

 さて、いろいろと抽象的なことを並べてしまいましたが以上です。何かの参考になれば幸いです。
  • 投稿者: 退会済み
  • 2013年 02月03日 09時21分
管理
感想ありがとうございましたm(__)m
参考になりました。

小説家は、腹黒く根性の腐った人が選択する職業・・・Σ(・□・;)そんな・・・

私としては、話しの途中途中で謎が、少しづつ溶けて行くような感じにしたかったのですが、話しがベタな上に、実力不足でしたね(^◇^;)
次は、もっとうまく書けるように頑張ります!

本当に、ありがとうございました。
  • 2013年 02月03日 16時26分
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