感想一覧

[良い点]
　主人公がじわじわと女性特有の思考や言動に冒されていっている様が物語中において実に自然であり、読み手から見ればその不自然さにぞくりとするものであり、とても読み応えのあるものでした。私などは、読んでいて「たしかにこういうところある、わかる」となるだけで実際にここまで描写しきれない気がするのですが作者様は女性というものの有り様を常日頃からよく観察されているのだなあと伝わってきました。
[気になる点]
　後書きの、この物語はこういうものの暗喩であった、という注釈ははいらないような気もします。SFだと思って楽しんでいたら急に現実に引き戻されましたので……できれば活動報告などで語る形で、余韻に浸らせて欲しかった、と少し思いました。
[一言]
　女性らしさの萌芽の描写がとても素晴らしかったです。最初は前半を読みながら、主人公が男だった頃の男らしさ、男特有の言動、考え方が前半にもっとはっきりと明示された形で活きていると更に物語に深みが出るのではと思っていました。ですがその後ライトノベルや数学書のくだりで「確かに男の子はこうある」、ととても納得し、作者様の小物だけで転換前の性であった彼を象徴させる技量に感服しました。
　それに、同時に男の子というのは実は女の子ほどには特筆すべき特徴ってそれほどにはないのではないかという思いにも至りました。だからこそこの物語は女性への性転換を描かれたのかなあと思うと更にため息が出ます。
　個人的には、男の子と性というのは切り離せないものとよく聞くので、例えばライトノベルの表紙の女の子が胸が大きいとか肌色が多いとか、さらに転換後の主人公がそれに嫌悪感を持つなどの表現があるともっとリアリティが出るのかなとも思いつつ、それだと少し下品にもなってしまうのかなあとも思います。

　色々と考えさせられ楽しめた作品でした。