感想一覧

▽感想を書く
[良い点]
起承転結がしっかりしており、オチをきちんと用意したこと。
死を扱う作品には物語として成立していないものが多々ある中、読者を意識して、構成に頭を悩ませたことがよくわかる。
[気になる点]
登場人物の感情の変化についていくことができず、彼等の生死に関心が持てない。
文章が冗長に過ぎる他、単純な誤字脱字やミスが目立ち、物語に集中できない。
[一言]

こんにちは、篠森です。
宣言通り、小癪な評価を送らせていただきます。


それでは、具体的に見ていきます。


良い点について。
この物語は起承転結の「転」から始まっていますね。
強盗殺人事件が起きて男が霊になる「起」、彷徨える他者の霊を迎え、数多くの死を見続けた七年間が「承」、男が死を受け入れるきっかけを作ることになる少女が尋ねてくる「転」、そして男が『魂の死』を迎える「結」。
どんでん返しのある作品に多く見られる構成ですが、扱うには「転」を「起」に見せかける必要があります。特に短編でこれを実践するのはなかなかに難しく、白鳥さんの高い技量がうかがえます。
冒頭の「男」は黒住ですね。見事にだまされました。


悪い点について。

>このまま時が止まってしまえば、と思った途端に怖くなり、少女は勢い良く水を飲み干した。

上記は「少女の心は洗い流されたようにすっきりとしていた」の少し後に出てくる一文ですが、彼女が何を怖がっているのかがわかりません。
続く男との会話の中でも、はっきりと「怖くなくなった」と言っているのに、何が怖いのでしょうか。

それとは逆に、男が「恐怖を克服した」少女との会話の中で、混乱し、恐怖し、驚愕し、怒りを覚える理由がさっぱりわかりません。少し後に彼のトラウマが、最終的には真相が明らかになりますが、彼が死に抱く恐怖を知ってなお、やはり理解に苦しみます。
彼の目的は、死への恐怖を克服して死を受け入れることですよね。少女が死への恐怖を克服したことは、男にとっては喜ばしいことのはずです。そこから自身の恐怖を克服する手がかりが得られる可能性があるのですから。
ならば男は、己の先を行った少女に敬服し、羨望と嫉妬を覚え、より深く話を聞こうとするのではないでしょうか。それを『電波めいたもの』と切って捨てていては、何のために死を見続けているのやら意味がわかりません。
勿論、人が抱く感情は人それぞれですから、上記はあくまで私が自身に置き換えて考えた上での意見です。男が抱いた感情の中では、私は劣等感についてのみ納得できました。


文章について。
かなりの数の文章が一つの段落に押し込められており、とても読みにくかったです。もう少し段落を細かく分けるだけで、随分と印象が変わるのではないでしょうか。
語彙の豊富さ、表現の多彩さには目を見張るものがありますが、それが逆に読み手の理解を妨げているように見えます。
また、違和感を覚えるところが多々ありました。以下に少しだけ具体例を挙げます。

>瞼を閉じて開けばほらそこは死の世界、というキャッチフレーズがありそうな事業をモットーに男は人を殺していた。

この「モットー」にかかる言葉は直前の「事業」になると思うのですが、事業がモットーというのは意味がよくわかりません。

>広間の中央にある長いテーブルに沿って設置されている約八つの椅子のうちに一つに座らせ、「それを書け」と事務的な口調で言った。

「それを書け」は攻撃的な命令口調です。事務的な口調と言うならば、前後の言葉遣いから考えると「これを書きなさい」が適当ではないでしょうか。

>「ここって、この館でですか」
> 決して雰囲気が良いとは言いがたい室内を見回した。

主語がありません。同一の対象を主語とする文章が連続する際、主語を省略するのはよくあることですが、直前の文章(地の文)の主語は男です。

>「あなたは私に死んで欲しいですか?」
> 間髪入れずに飛んできた質問にしては、男の言葉を詰まらせるものだった。

この一文は、質問の内容ではなくタイミングを指して「男の言葉を詰まらせる」と書いているように見えますが、間髪入れずに飛んできた質問だからこそ、咄嗟に返答できずに言葉を詰まらせる、という事態が起きやすいのではないでしょうか。
内容を指して書くなら、「間髪入れずに飛んできた質問は」でいいと思います。

>必死の精神は羞恥心すら隠していたが、それに気付いた少女は給士服で自身の身体を隠すと、男に出て行くように命じた。

少女は「お客様」ではありますが、男に退室を『命じる』ことができる立場かと考えると、少し違うように思います。
勿論、おそらくは「出て行って下さい」「見ないで下さい」という類の台詞を口にしたのでしょうし、「下さい」は丁寧語とはいえ命令形ですから『命じた』でも間違ってはいませんが、どうにも違和感が拭えません。

>今年に入ってからの百人の自殺者

後に、男が死者を送ることを決めたのは七年前であることが黒住との会話の中で明らかにされていますが、男は六年間、一人も送らなかったのでしょうか。


あとは単純ミスの多さが難点です。一部を挙げますと、

 八つの椅子のうちに一つに座らせ      → 八つの椅子のうちの一つに座らせ
 痛みがない、衝撃も無い          → 同じ言葉を平仮名と漢字で書いている
 掴み所の見えない             → 掴み所のない
 恨みを思っている             → 恨みに思っている
 罪悪感を感じない             → 「頭痛が痛い」と同様のミス
 胸の奥がぐっと押される感覚を感じ     → 同上
 そういえればと少女は自分の格好を見直した → そういえば
 乾いた土に足を踏む出す          → 足を踏み出す
 素直に生殖本能に従って生きれない不幸   → ら抜き言葉

こんなところでしょうか。
全体的に、構成面ではしっかりと見て取れた読者への気配りが、文章面では感じられませんでした。
特に単純ミスの多さは、文章力で勝負するなら何よりも優先して改善すべき点だと思います。


最後に、オチについて。
とても残念だったのが、冒頭と最後に登場する死体処理の男に「黒住」という名前がついていたことです。
ここまで個人名なしでやってきたのですから、最後まで「何処かの誰かの物語」を貫いてほしかった。この名前一つで、物語の持つ雰囲気が大きく減じてしまったように思います。

あと、オチのためとはいえ、地の文に虚実を書くのはいただけません。
男は事業を営んでなどいないし、殺人を犯してもいません。生者が生者を殺す行為と、死者が死者を送る行為を同列に並べられても『同業者』側としてはいい迷惑でしょう。
少女を騙すために台詞の中で説明する分には何の問題もありませんが、地の文でそれをするのは反則のように思えました。ルールがあるわけではありませんが、なんとなく。
見事な引っ掛けは読後感を痛快なものにしてくれますが、本作を読み終えて感じたことは「引っかかった~!」ではなく「嘘を読まされた……」でした。


随分と長くなってしまいました。
既に多くの評価をいただいておられる後ですし、比較的ダメージは少ないかと思いますが、それでも不愉快な気分にさせてしまいましたら申し訳ありません。
今回の評価が、白鳥さんが更なる高みに昇るための踏み台になりましたら幸いです。
  • 投稿者: 篠森京夜
  • 30歳~39歳 男性
  • 2009年 10月26日 10時54分
どうもです。

批評ありがとうございます。大変参考になりました。

オチに関して。
確かに見返してみればおかしいですね。書いていくうちに序盤に書いた情報を忘れていろいろ書き足してしまうのが癖なようで、後半につれ矛盾が多くなってしまうことがよくあります。反省点ですね、精進します。
黒住に関しても返す言葉がありません。実際、「男」という表現で今作を書き始めた結果、最後に出てくる死体の運びやもまた「男」であるため、表現を重複しないようにどうしたものかと考えた結果、昔使ったキャラの名前を使うという妥協策に出たのが読者に見事に突っ込まれて、こちらとしては謝罪ものです。やはり妥協をするとバレてしまいますね。がんばります。

文章面。
確かに文章力で勝負しようと思って気をいれて書いた今作ですが、やはり「硬い=難解な表現や、長い文章」が目立ち、悪い面にひっくり返ったようです。このあたりのさじ加減は私もまだよくわからず書いているので、いろいろ指摘を受けるのはありがたいです。
細かなところの指摘についても、やはり推敲不足が目立ちました。表現に気を使って書いているとその表現に自身が酔ってしまうような感覚があるので、どうにも推敲時に客観的な目で見るのが難しかったりしました。表現で勝負している人間が表現をダメ押しされるのは最悪ですね。厳重な推敲をこれから心がけていこうと思います。

文章面を特に力を入れて書いている自分にはとてもありがたい批評でした。長編の「フィスト」のほうも同様に、「物語の構成はある程度、とにかくテーマに対する持論展開と、文章面での過剰な表現でエンタメする」というのをモットーとしてやっておりますので、こういう批評をいただくと身が引き締まります。
話の構成に関しては、基本的に「プロット」というものを立てたことがない人間なので、そこからはじめなければならないと思います。だいぶ遅いですが(笑

では、この批評をバネにしてまたステップアップしたいと思います。
ありがとうございました!
[一言]
ども。さっくり本題いきます。

テーマ、内容について。
こういった構成の小説で作中で作者が答えを明示していない(何が言いたかったのかわからない)ものはあまり好ましくはありませんが、こと「死」というテーマにのみ、それは適用されなくてもいいと思います。
死んだことのない人間が「死とはこれこれこういうものである」と断言することはできませんから、そこを明示しろというのは無理な話です。
なので、この程度の表現に留めたことは個人的には高評価です。
……ですがまあ、ここはやっぱり好みが分かれてしまうところでしょうね。そもそもテーマの段階でそれは避けては通れない話でしょうから。
ですが、好みが分かれるにしても突破力(意味はわかるかと)が弱かったかな、というのはあります。
個人の好き嫌いレベルの壁なんかふっ飛ばすくらいのワンシーンがあれば評価も変わってきたでしょうが、始終一定の壁を破れていなかったのが残念。

文章について。
上手いというよりは読みにくいという印象のほうが強いです。みんな言ってますが。
丁寧かつ重厚な描写は凄いと思うし自分にはまったく真似できるとも思いませんが、これ、もっとシャープにできたんじゃないでしょうか。
どんな形であれ書くものが物語である以上、メリハリは必要だと思います。好みの分かれるテーマを選んだのなら尚更じゃないでしょうか。

とは言いつつも、所々で文章に飲み込まれるような錯覚を引き起こされてしまったのも事実です。
なんなんだこの毒は。このネタを長編でやられたら頭おかしくなるかもわかりません。

言ってることと矛盾してるのは承知の上なんですが、蜻蛉氏に関しては文章の毒をさらに磨いていくほうがいいのかもしれません。
前述した突破力が備わったとき、今回みたく文章についてあれこれ言われることは格段に減るはず。

描写が重い→削り落とす
のではなく、
描写が重い→研ぎ澄ませる

こんなイメージで書いていくと、たぶんすごいことになるんじゃないかなと思います。

抽象的なことばかりで申し訳ないですが、自分に言えるのはこのくらいです。
これからも頑張ってください。
  • 投稿者: 静波
  • 2009年 08月20日 00時25分
どうもです。

突破力ですか。確かに冷静に見直してみれば、皆さんが言っていた「盛り上り」がなんなのか今更気付いた気がします。物語が結構平坦な感じはしますね。
正直な話、あまり毒々しい話にしたくなかったので、最終的に無難に留めたのが問題だったのかもしれません。扱っているテーマの重さに対して、どうにもひ弱な対応に出てしまったかもしれません。そこのところを厳しく練りこむべきでした。精進します。

「研ぎ澄ませる」ですか……なんかしっくり来ました。三人称なので毒のある文章は意外と避けたつもりなんですが、やはり何か一人称の頃のものが抜けきっていなかったみたいですね。
正直ここまでくると、もう個性を叩かれても伸ばすしかないと思えてきました。某所にも書きましたが、そういう意味でも自分は三人称より一人称な気がしてきました。研ぎ澄ますというのはそちらで頑張ってみようかと。
ただやっぱりスマートにすることも大切ですね、今度からはそういう部分も見ながら推敲しようと思います。

では、評価ありがとうございました!
[一言]
 どうも、やってきました双色です。
 境界線の輪郭、作者様自身が自信作というだけあって素晴らしい出来だったと思います。

 あとがきにあるように、これが読者にテーマを考えさせる作品、というなら確実に成功していると私は思います。
 ただ、仰るとおり死ネタや自殺は賛否両論であり、タブーです。私は「死」というとどうしても生まれた環境や宗教などの影響もあり、人により捉え方がことなり、多くの読者が共感できない、また理解がずれてしまうという点で問題があると考えています。
 この作品における「死」は終始その概念を明らかにせず、その存在の外堀、曖昧な輪郭のみを作り上げて、以降の完成形は読者の慣性に任せる、というものでした。それが狙いだとは思いますが、やはり作品を書く以上、何らかの答えを形にして作中に示すべきだと私は思います。
 例えば誘導的な概念があったわけではなく、この物語で明らかになったのは「死を迎える人間の心境、そしてそれを受け入れる心境」だったと思います。主人公の男が沢山の死を蒐集し、答えを見つける、という結論ではなかったようなのが少し物足りなさを感じる原因だと思います。
 人には解らない、生から死に至る瞬間を境界線という言葉に定義したのは素晴らしい発想だと思いました。飛び抜けて珍しい、とはいえませんが、掴み所の難しさではこの作品にあった言葉だと思います。

 文章に関しては、情景描写、心象描写が少なく、殆どの地の文が説明文で構成されていました。非常にレベルの高い文章だったと思うのですが、丁寧すぎる、あるいは簡単な説明文を硬く暗い雰囲気の作品に合わせた長文にしたことで、少し読み進めていくのに疲れを感じました。
 文章のテンポ、流れや起伏という部分だけが残念な点です。
 冒頭から文末まで一定の雰囲気でまとめられているのは良かったと思います。ただし、物語という形式を持つ小説である以上、少なからず話には盛り上がりをつけた方が読みやすくなります。長い説明文章や作り込まれた設定があるのですから、それを活かして中盤(しいていうなら少女が死ぬ直前など)は盛り上げてもよかったと思います。

 ジャンル文学、というのは私にとって未知の領域ですので、的外れな意見が多い拙い評価になってしまったと思いますが、最後まで目を通していただきありがとうございます。
 この手の作品には素人の意見ですので、聞き流してくれても構いません。
 全体的にテーマも纏まっていて、読後感は悪くありませんでした。しかしそれを面白い、と感じるかどうかは人次第です。完成度でいうなら素晴らしい作品でしたが、その点で評価は少し低くしました。

 では、良作をありがとうございました。
 これからも執筆頑張ってください。
  • 投稿者: 双色
  • 15歳~17歳 男性
  • 2009年 08月19日 19時20分
どうもです。

実に痛いところをつかれまくった気分です。素晴らしい批評をありがとうございます。
結論を読者に任せた、というわけではありませんでしたが、確かにこの作中で具体的な「死」というテーマに対する何らかの回答が提示されたかといえば、それは否でした。テーマ至上主義の自分でしたが、今回のこれは「物語」重視の話であり、そのテーマに対する書き方がなっていなかったのかもしれません。オチを重視するあまり、その点を失念していたようですね。

文章に関しては気を遣いすぎましたね。各所で言われます。もっと読みやすい文章になるように努力したいですね。
盛り上り、というのはなんとも言えませんが、テンポをつけて伸ばすところは伸ばし、そうでないところはすっきりさせる、というのは意識したほうがいいのかもしれません。精進します。

「面白い」作品を目指したものではないのでなんともですが、それでも物語としての魅力が高くなければ小説である意味が薄くなりますからね。真摯に受け止めます。
次回作はもうちょっとラフにやってみたいと思います。

では、評価ありがとうございました!
[一言]
蜻蛉先生はじめまして。私、放浪感想人の鏑と申します。どこにも属さず風の流れるままに感想を書くケチな(辛口)感想人でございます。貴作、読ませて頂きました。愚感を残したく思います。

まず、文章がお上手ですね。読んでいてつっかえることのない、上質のお蕎麦のような文体に唸ってしまいました。さらにプロットにも工夫が凝らしてあり、読者を飽きさせまいとする作者様の配慮が見て取れます。

が、あまり情景が思い浮かびませんでした。過剰なまでに様々な情報が盛り込まれているのに、その情報たちのベクトルが拡散してしまっているような印象でした。思うに、神視点で話を展開しているために視点が定まっていないのがその原因なのではないかと思います。あるいは、情報の取捨選択の問題かなと思います。

あと、このお話の雰囲気のためとは思うのですが、漢語的な表現が目立ちます。漢語は固い雰囲気や的確な表現の創出が容易という利点がありますが、多用しすぎると難解で生硬な文体となり、結果として“平板で冗長な文章”との印象を読者にもたらす危険が増すという不利益が生じます(←ね? この一文、読みにくいでしょう?)。
この指摘はあくまで鏑の好みの問題なので、あまりお気になさらずともよろしいかとは思いますが……。

あくまでこれは鏑の勝手な感想なので、お気に召さぬ感想であればご自由にご削除ください。
これからもご執筆頑張ってくださいませ。
  • 投稿者: 鏑
  • 2009年 08月16日 23時37分
どうもです。

ご指摘ありがとうございます。
視点、というのはなんとなく分かります。一体誰が主人公なのかも恐らく分かりにくかったでしょうし、過剰なまでに描写するくせがあるので情報過多で読み難い、というのもなんとなく納得が行きました。情報の取捨選択ですか……難しいですね、以後気をつけてみます。

漢語表現は意外とあれでも避けてきたつもりですが、やはりくせでしょうか、意味も無くかっこつけようとしているかもしれません。あとで見直して見ます。

いえ、参考になります。半ば文章力で勝負している人間なので、こういうご指摘はありがたいです。精進します。

では、感想ありがとうございました!
↑ページトップへ