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[良い点]
 あっという間に読了してしまいました。実に素晴らしい小説。特にストーリー構造が卓越しています。ホラー小説の王道を踏襲した見事な構造と言わねばならないでしょう。
 怪しげな人物の住む別荘に向かう、雨による陸の孤島化、クリーチャーの出現、呪文による退散、されど物語は終わっておらず……。
 豊かな情緒、余韻を残したストーリーでしたね。破滅を匂わせるエンディング。何より忌々しい宇宙的恐怖を日本風に落とし込んで描出した点は、端倪すべからざるものを感じます。
 すなわち、「天狗伝説」や「ジェイムズ・モリアーティによる冥王星予言の真実」などの固有名詞を有した資料を活用して宇宙的根源を匂わせる描写は、ラヴクラフトが作品中に、「ネクロノミコン」や「屍食教典儀」などと架空の資料を出したのと軌を一にしています。加えて、そうした伝統を受け継ぎつつ、独自の神話的解釈を打ち出したところに、貴著の持ち味があるものと推量します。
 また、神話生物の描写も最高にクールでした。生理的嫌悪感、総毛立つようなおぞましさを想起させる表現であり、クトゥルフ神話マニアにはたまらないです。
[気になる点]
1.三点リーダの誤用
 三点リーダ(…)の誤用が目立ちました。三点リーダは基本的に偶数個で表します。「……」のようにです。しかしながら、貴著を問わず山和平さんの著作では三点リーダを奇数個で使用しています。
 奇数個で使うという信条がないのであれば、訂正したほうがよろしかろうと思います。

「蓮華丘の妖犬 - 前編より」抜粋

「………面白くないかもしれないけどな」

「………まだ余裕はあるし、試してみてもいいか。とにかくアポイントを取らないとダメだろ」

 など。

2.誤字脱字
 所々誤字脱字が散見されました。下記に発見した箇所を列挙されていただきます。

「蓮華丘の妖犬 - 前編より」抜粋

「はは。種を明かせば、もともとここはペンションだったらしいんだ。脱サラした前のオーナーが山目当てを客を泊めたり、自分の趣味を満喫していたんだよ」
→「を」が重なっています。

何かがグラグラと揺れているような錯覚を覚える。
→「錯覚を覚える」は不当な表現です。この場合、簡素に「~ような錯覚」と体言止めするか、「錯覚を抱く」とするほうがいいかと。

「………ねえ、声が聴こえない?」
「声? 山奥だぞ」
「いや、声と言うか、犬の吠え声みたいだ」
 牛沢も頭をゆっくり横に振りながら音を拾っているようだ。
「………おいおい。嘘だろ。まだ午前中だぞ」
「………聞こえなくなったな。随分遠いのか。結構響くんだな」
「山の静けさとか、響きやすい地形とか、色々あるのかもね」
 俺一人だけ聞こえなかったので、少し面白くない。
「なあ、こんな話知ってるか?」
→「聴く」と「聞く」の使い分けが奇妙です。統一したほうがいいでしょう。
 また、一般的には「聞く」を使い、注意深く、あるいは進んで耳を傾ける場合には「聴く」を使用するようです。ご参考までに。

3.語法
 ややテンポの悪い表現がいくつかありましたので、抜粋させていただきます。

「蓮華丘の妖犬 - 前編より」抜粋

あいにくゲームの類は無いけど。お風呂はそのままにしておくけど、沸かし直して入って貰えるかな」
→「けど」が連続しており、ややテンポに欠けました。
「あいにくゲームの類は無いけど。お風呂はそのままにしておいたから、沸かし直して入って貰えるかな」
 のようにしてしまうのはどうでしょうか。

「蓮華丘の妖犬 - 後編より」抜粋

だが、そいつは、光の中に浮かび上がったその姿は人間とは絶望的なほど掛け違っていた。
→「掛け違っていた」の表現に違和感があります。おそらく「乖離していた」や「隔たっていた」というようなことを言いたいのかと推察しますが、「掛け違う」にそのような意味はありません。
 この場合、素直に「掛け離れていた」と表記するのが無難でしょう。

人の常識をひっくり返すような冒涜的な生物の存在が、俺たちの脳を作動不良に突き落した。
→「作動不良」という表現はやや一般的ではないように感じました。「不具合を起こしていた」や「脳がショートしていた」という表現にするのが分かりやすいように思います。

餌を求める漏れる吐息が聴こえる。
→「求める」と「漏れる」が連続しています。「餌を求める吐息が漏れている」や「餌を求める吐息が隙間から漏れ、俺たちの耳に届いた」のようにするのがよいかと。

4.表現
 表現が淡白、あるいは無味乾燥とも取れる表現がありました。

「蓮華丘の妖犬 - 後編より」抜粋

先生は犬に対して呪文を使えとレコーダーに言い残した。
 もう縋れる物はこれしかない。
 俺はその部分を開き、二人に無理矢理印を作らせた。
→できれば登場人物の心理描写がほしいところです。凶暴なクリーチャーが今にも襲いかかってくるのですから、印を作るだけでも手が震えたりしてできなかったり、心のどこかでバカバカしく思っていたりするのではないでしょうか。「果たしてこんなオカルトめいたことをすべきなのか」に対し、「もはやこれしか解決策はない」という葛藤、あるいは現実逃避などの心理をつぶさに活写する絶好の機会と愚考します。
 せっかく年若い高校生をキャラクターに起用しているのですから、ジュブナイルな心理描写をしないのはもったいないかと思います。
[一言]
 初めまして。密室天使といいます。「蓮華丘の妖犬」拝読させていただきました。
 高校生を起用した見事な怪奇小説と相成っていました。小説家になろうでは珍しい、クラシカルなクトゥルフ神話ものです。
 山和平さんの著作は全て目を通したのですが、これほど本格的なクトゥルフ神話ものを書いていらっしゃる方がいるとは思ってもおりませんでした。
 アイデア、表現能力、宇宙的恐怖の理解、どれをとっても一級品ですが、何よりも僕の心を掴んだのは、詳細な資料設定です。山和平さんの著作では作りこまれた資料が多々登場し、毎回胸躍らせて読ませていただいております。

 また、クトゥルフ神話TRPGプレイヤーとして、巻末のリプレイはクスリとさせられるものがありますね(笑)。
 ミ=ゴ……僕は好きですね。シナリオに登場させやすいという特性からか、人間でもどうにか倒せるほどのステータスが祟ったのか、どこか安売りされている感のあるミ=ゴ……。
 最終的にわんわんに倒されてしまったものの、その得体の知れなさ、おぞましさを感じることができて、とても満足でした。

 楽しい時間をありがとうございました。山和平さんの次回作を楽しみにしております。
 それでは。
感想ありがとうございます。
表現部分に関してはとても参考になりました。
また、楽しんで頂けたと言う事に本当に嬉しく思います。
  • 山和平
  • 2016年 03月12日 23時13分
[良い点]
 期待通りのクトゥルー神話もの。
 ホラーとしてはあっさり目ですが、手堅くまとまっていてサクサク読めました。
 グラナダホームズを見て育った世代で、一時ホームズパスティーシュ(ジューン・トムスンのとか)を集めていた時期もあったので、「221B機関」の設定には胸熱!
 『ソーラー・ポンズの事件簿』も本棚のどこかにあるはずなんだよなあ…。

 設定が作り込まれていてよかったです。
 
[気になる点]
 進行をやや台詞に頼って情景描写が甘い印象がありました。
 3話目は完全にTRPG者向けの内輪ネタですね。面白かったけど。
[一言]
 楽しく読ませて頂きました。ありがとうございます。
感想ありがとうございます。
クトゥルフ神話としてソーラー・ポンズが完全翻訳される日が来ない物かと思っています。
  • 山和平
  • 2015年 12月17日 23時56分
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