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[良い点]
小規模ながらも、妙にリアリティのある人間ドラマ。そこに隠し剣の要素を落とし込んだ技術力は流石ですね。
あと、ラストの方の「やがて建物も死ぬのだ」という表現、ロマンチックで好きです。
[一言]
遅くなりましたが、拝読致しました!
新春には時代劇が似合いますね(季節は夏の設定ですがw)。時代物と言えば長~いイメージがあり、ドラマならまだしも、読み物にはなかなか食指の伸びない私ではありますが。本作は短くて入りやすくて、話もわかりやすく、余韻もバッチリでございました。なんというか、しれっと火トメの御頭が出てきても違和感のない世界観でしたね(笑)。
橘さんも仰っておられますが、今回の斬られ役は、鵜狩さんにしては小悪党でしたねぇ。なんというか、小心者の役人が保身に立ち回る様子を思い浮かべてしまいました。しかも、たいした悪事は働いてないっていう(武士道的にはアウトかもしれませんが、現代の基準で言うと未遂だし)。不安と小さな野心が空回りして、足元が見えてないんだよなぁ。
が、だからこそ下手人の動機が活きる。この見せ方は非常に巧いと思いました。物事は、単純な因果関係ほど根が深いのかもしれません。
なんかこう「そこだけで完結してる世界」って色気があってイイですよね。誰も知らないところで始まって終わってたっていう。そういう意味で、確かに情緒的な隠し剣でございました。美しいネーミングと技の粗っぽさ、その対比も面白い。
楽しませて頂きました(´∀`*)
隠し剣シリーズ、次は傾奇者の話とかどうかしら…?|д゜)チラッ

  • 投稿者: 雪麻呂
  • 2016年 01月21日 13時47分
 いつもながら感想ありがとうございます。
 活動報告でも述べたようにホワイダニットに軸を置いておりますから、事がそこに至るまでの人間関係に「リアリティがある」と仰っていただけたのも、「動機が活きる」としていただけたのも、大変な喜びであります。
 そして確かに時代物、歴史小説は重厚で濃厚で長いという印象を抱かれがちでありますが、でもうちのは大丈夫。なんたって似非時代劇でありますからな。

 斬られ役。
 前二作もなのですが、この似非隠し剣シリーズは悪役の見せ方の練習の一面を持っていたりします。燕雀が悪いんだけど嫌いになれない、骨無しが子供じみているのに狡猾、本作が立身出世が目的の、でもごく普通の人間、と言った具合。
 逆に言えば彼らが小悪党というよりも、今回は斬る側が非人間的なのです。天性天分を要する剣の道筋にどっぷりと没頭して、そこで閉じた世界を作り上げて、その観点だけで世間を論じる。
「誰も俺を理解してくれない」って天才が言ってるけど、でも君も俺たち凡人の事を理解できてないよね、みたいな感じでありましょうか。
 でもそんな世界を色っぽく、そして胸に残るような風情に描けていたなら、それはとても嬉しい事です。

 傾奇者。
 僕は常識人で突飛な発想の出ない子なので、そういったハイセンスな主役はむつかしいかもしれません。なんせ常識的で生真面目で突飛な発想とか出ない子なので!、
[一言]
完結後に通読させていただきましたので、新春時代劇となりました。鵜狩様の剣客シリーズ、安心のクオリティで楽しめました。

豊富な語彙と端的な表現力には、いつもながら感心するばかりです。特にこちらのシリーズは、時代小説的な古風な言い回しを多用しつつも、口語で書かれたそこらへんのラノベよりも遥かに読みやすい。複雑な人間関係を過不足なく説明し、チャンバラシーンの細かな動きを勢いよく描写し、筆運びの緩急もお見事ですね。

今回は斬られる側視点で進行していましたので、活報でおっしゃっていた通り、「犯人が誰か」「どうやってやったのか」の謎解きも楽しめました(犯人はわりとすぐ分かっちゃいましたが……笑)。
斬られた弟子四人衆は、師匠への凶行を別にすれば、そう悪人ではなかったように感じます。何というか、野心も虚栄心もごく普通の人が持ちうる範囲のものだと思えるのです。逆に平助の方が、地がピュアなだけに思い込みが激しく、道徳や規範を楽々と飛び越える人間だったように思えました。甲斐谷師範は、剣の腕だけでなく、彼のそのような心の自由さを見込んで技を教えたのかな。

まさに選ばれし者にしか使えない殺人剣技を、儚く脆弱な蛍火に喩えたところが面白かったです。ラストシーンと呼応して寂寞たる読後感が胸に残りました。

またこのシリーズの次回作を楽しみにしていますね!
  • 投稿者: 橘 塔子
  • 女性
  • 2016年 01月17日 20時17分
 いつもながら丁寧な感想、ありがとうございます。
 年末時代劇を謳いつつ、結局時期はそんな具合になってしまいましたけれども、でもお楽しみいただけましたなら何よりにございます。
 いやそれにしても橘さんに語彙やら表現力やらへお褒めを頂戴すると、面映ゆいやら身が竦むやらな心地です。常日頃から「あー、こういう心理状態わかるなあ」と思いながら拝読させていただいているだけに、何ともこう、気を引き締めねば、みたいな。
 でも人間関係や殺陣まで持ち上げていただけて、大変に嬉しい心地です。すぐに木に登る俺であります。

 ホワイダニット。
 まあ犯人はすぐわかっちゃいますよね。名前ありの人物を消去法でいけばもうすぐですよね。でも犯行の動機こそが肝心のところでありますから、見抜かれたって悔しくないですよ。全然悔しくなんてないですよ。ないんですってば!

 弟子たち。 
 四人はご指摘の通り、そこまで踏み外してもいないんですよね。
 忠見の一見についても、熱くなって魔が差して、引っ込みがつかなくなっちゃった感じです。むしろ忠見が血を吐かず、そのまま上手く収めてくれたら何事もなかったようにできた可能性もありました。
 でもああした次第になってしまいましたので、その後はお互いがお互いを見張るギスギスフィーリング。そこから相互の関係も捻じ曲がってしまったような感じです。
 そして平助についてもこれまたご明察で、彼はピュアというよりも世間が狭いのです。だからその分、師の占めた割合が大きくて重い。子供にとって親が全て、というのと似た具合でしょうか。
 後事を託してあったのからも知れるように、忠見は平助を我が子のように扱っておりましたから、秘剣の伝授にも「平助の可能性のひとつとなれば」みたいな意図もありました。
 一番大きな動機は、やはり自分という器に入った水を移せる相手が欲しかった、というところにあるのですけれど。
 どんなに強い人だって、他人と断絶してしまっているというのは、生きた軌跡を何も残せないというのは、とても寂しい事だと思うのです。
 蛍は他を求めて光るものでありますから、蛍火という剣名もここからの流れになります。自分はここにいるのだという、幽かな光です。
 ラストシーンの寂寥が良い読後感となったのならば、書き手冥利にございます。
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