感想一覧

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[一言]
第一に、音楽的に優れた作品だと思いました。「時計というものは……」から文章が立ち上がり、段落で区切られてはいますが、ほぼ繋がりの保たれた連続的な文章がそのあとに続いています(むしろ段落がなくても違和感のないくらいです)。今、その直後に書かれた連なりが、また次の連なりを生んでいる。シナリオで読ませるというよりも、純粋に文章自体を読ませるものと感じられました。

次に、連続的な文章の間に挿し込まれた、異様に目立つ二つの短い文章が気になりました。まるで彼について語るナレーターが入れ替わってしまったかのような迫真感です。おそらくこの部分のみ、時系列的に整っていない。全体を満たしているほとんどの文章が、その時その時に即興的に思いなされた、彼と彼を語るナレーターのアンサンブルだとすれば、二つの断片、「彼は昔、……」と「子供の頃に殺したのは……」は、むしろ断片ではなく、全体としての演奏を支える、作品を通底する「場」としての役割を果たしているのではないか。そういうことを考えました。

とすれば、物語全体を見たままに印象付けるとしたならば、ナンセンスと総合して言えるのかもしれませんが、二つの文章によって予示されている、聴き取ることのできない非常に低く重い音によって、実に意味ありげな作品として仕上がっているのではないか。ここにおいて、読者は奇妙な体験、つまり、「有意味的な作品を無意味的に読む」という事態に出くわすのではないか。だから、自分も含め、また、音楽的な響きの心地良さも含めて、何度も読み返さざるを得ないのではないか。憶断ではありますが、以上のことを、この作品から掴み取ることができました。
  • 投稿者: 水野 洸也
  • 男性
  • 2016年 06月11日 07時54分
感想ありがとうございます。

まず、この作品から読み取って頂いた様々なことについて、私が意図した部分に触れられたことの喜びと意図せずに生み出された結果への驚きを感じます。それがどの部分であるのか、また私がどのような意識でこの作品を書いたか、それはあえて触れずにおこうと思います。小説に「答え」なるものが存在するかどうかは私には判断しかねますが、少なくともこの作品においては「答え」を設けることはしたくないと考えています。

その上で私がここで語ることができるのは、結果ではなく過程だけとなります。
この作品は他に比べて短い時間で書き上げることができました。それは普段とは違って、推敲までに設ける空白期間と実際に推敲を始めてからの時間がなかったためです。ですから生まれてきた言葉の、生々しさとでもいうべきものが削がれることがなかったのだと思います。そうした短距離走のような手法が成立し得たのはこの長さであったからこそでしょうから、私は短編に向いているのかもしれないと、今更ながら感じる次第です。
そのような気付きを与えて下さったことにも、感謝を申し上げたいと思います。

水野 洸也さん、ありがとうございました。
[一言]
シーリングファンの光景は、幼い頃にすごしたスリランカの家を思い出します。
なんでもないことに疑問をもち、必然的に観念に囚われた結果、うだるような暑さの中溶けていく理性を思いつつ、過去の自分が今の自分をどうするのかというところにまで行き着いたのかな、と思います。
暑さは理性を溶かし、湿気と太陽光線に狂気を運んでくる。
「異邦人」では、太陽の眩しさゆえに人を殺した男が描かれますし……
そんなあれこれを考えながら、読みました。
抽象画のようなタッチが面白かったです。
  • 投稿者: 犬井作
  • 2016年 06月05日 17時56分
感想ありがとうございます。

書きながら考えたあれこれをまさに読み取って下さったものだと感じます。シーリングファンの光景は「地獄の黙示録」の冒頭を、The Doorsの「The End」を想起しながら書きました。映像と音楽が一つになったときに生み出す力というものはやはり凄いなと感じた次第です。それから言及なさっている「異邦人」も頭の片隅にありました。また、三島由紀夫の「午後の曳航」も……。
そんなふうに「借り物」の力で勢いに任せて書き上げた形になりますが、私の予定ではこの後に「来たるべきもの」があります。ここで膨らませられたもの、そうでないもの、それらを考慮しながら筆を進めていく所存です。
そのときはもっと面白く読んで頂けるような、そんな作品になればと思います。

犬笑虚白さん、ありがとうございました。
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