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何度でも恋をしよう

 コーヒーを飲むには時間がかかる。豆をひき、湯を注ぎ、蒸らして、抽出する。熱いコーヒーを、一気に飲み干すことはできない。彼は、彼女を眺めながら、コーヒーを、時間を味わうのだ。

 あたたかな日ざしの下、くるくると動く彼女の表情、平静を装う彼。甘いケーキに、苦いコーヒー。この話が巧いのは、その対比にある。

 この話の恋人たちの関係は、時計の長針と短針に似ている。長い針がせわしなく回るあいだ、短い針は後ろ姿を見送り、重なる夢を見る。
 恋人たちは、会うたびに恋をして、よりいっそう、好きになるに違いない。春の光の中、何度でも、何処までも。
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