イチオシレビュー一覧

世界を陥れた魔王の手から世界を救った英雄達の後日談。

最初の話のゆるさや表現に騙されれたら作者の思う壺だ。読めば読む程作者がタイトルに仕掛けた罠が効いてくる。

何気ない文章や一言にも伏線が貼られていて、頭の中が掻き乱されるし、この作者の頭の中もどうなっているのか謎。

一番はその毒のすごさで魔王も魔法も俺TUEEEでもあるのに、平和な時だから起きる日常の人間の悪意と弱さが強烈に読者の心臓を痺れさせる。

普段とは違うなろう作品を読みたいと思ったなら、これは是非読むべきだ。

たまには人間の悪意と弱さの毒に塗れてみて痺れて見てはどうだろう？

世界を救った英雄の後日談、ないわけではないし、異世界から日本に色々な人が転生してくるお話も、ないわけではない。
ただそのふたつの要素を併せ持ち、なおかつキャラクター小説としてここまで読ませてくれる作品を、寡聞にして僕は知らない。
特に舌を巻くのは情報の出し入れのさじ加減だ。
やや感情的ともいえる、実年齢も性情も「若い」１話主人公
のユウタ。
彼の視点から語られる一人称は若者らしい生々しさをふんだんに持っており、深くややこしい説明や観念的な描写をざっくりと削り落としている。
その分、登場人物に対しての描写配分が厚くなり、緊張感のあるストーリーながら、人物たちの息吹が間近に聞こえることにとても安心するのだ。
主人公たちを取り巻く世界もきわめて複雑な事情を多数抱えているが、ユウタの意志がはっきりしているので物語の筋も明確で読みやすいのである。
２話以降どんな展開になるのか楽しみ過ぎるなあ。

本作は転生モノだ。
転生していくのではなく、異世界から現実へと転生してくる物語。
世界には昔から人知れず転生者が溢れていて、そして現代、魔王が転生してきてしまう。
魔王はリアリスト的な手段で世界征服に乗り出し、“ぼく”がそれを打ち倒して平和をもたらした。

そう、この物語は一度完結している。
そして本作で綴られているのは、“そこから先”の物語なのだ。

タイトルを見てもらいたい。
平和になった世界にとって、強大な個である主人公たちは腫れ物だ。
各国の思惑、戦後の復興、宗教団体、未だ蔓延るモンスター。
煩雑な諸々に縛られながら、それでもゆるゆると、飄々と日々を送る“ぼく”と、その目から描かれる世界の姿は柔らかい。

そして優しい文体が、難しく現実的なテーマをオブラートのように穏やかに包んでくれる。
どんな物語にも存在する“その後”。
本作に目を通し、想いを馳せてみるのも悪くないだろう。