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二匹の蝶の見せる愛の色、そして残る余韻という鱗粉

 三味線の音とともに、男の口という蛹の切れ目から吐き出てくる蝶。

 その蝶がヒラヒラと舞いみせる色は、人生という幼虫期に男が這いずり回り、ひたすら腹の底で隠してきた、愛しい役者への狂おしいまでの思い、そして、その役者の人生という舞台を観客として見上げ続けるしかできなかった男の悔しさの色なのだと思う。

 また男の蝶の舞を観劇した後に、舞台上で愛する男を見下ろし続けるしかできなかった役者が吐く蝶の舞は、どんな色を見せるのだろうと考えてみるのも、この演目を観劇するもう一つの楽しみ方だ。

 ただ、どちらの蝶たちも、自分達が舞い見せる色について悲観しすぎることなく「それでもよかったね」と微笑みあっているだろう。
 
蝶が飛び去った後に残る余韻という金銀の鱗粉は、静かに、そしていつまでもあなたのこころに残り続ける。

五分間、この情愛に耽って下さい

けして長くはありませんので、どうか楽になさって。

語られるは一人の男の、密やかな背徳の人生です。
腹の底を這い、心の鋳型でとろとろと熟された想いが今、ようやく羽化し、
男の口から吐き出されようとしているのです。

私はその色を、形を、一言では表現できませんでした。
ただ、確かにそれは一生をかけて成りえた想いの結晶であり、愛の舞いでした。

短編です。
晴天の今日、光へと翅を広げる二羽の蝶を、共にご覧になりませんか。

一対の蝶は人生を賭して背徳の愛を舞う

  • 投稿者: 足軽三郎   [2017年 07月 14日 23時 22分]
 それは昔の話でございます。
 表沙汰には出来ない想いを、男は抱いておりました。
 叶わぬ想い、けして結ばれる事なき願いと知りながら、胸の内には仄かな熱がありました。

 ある日、相手の告げる言葉に男は絶望致しました。
 諦めねばならないのだと。
 苦い記憶は風化することなく、けれども相手が家庭を築く様から目を離すことも出来ないままで。

 汚らわしいと人は謗るのかもしれませぬ。
 時代が故に、今より厳しい視線を投げつけるのかもしれませぬ。
 されど、男の抱いた純粋さは......純粋さだけは認めてあげてくださいまし。

 体は枯れども、涙は枯れず。
 見送るその目に秘められるは、誰一人として知らぬ愛という名の葬送曲。
 そしてここに記されるは、名も無きソドムとゴモラの蝶の舞い。
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