イチオシレビュー一覧

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恋い焦がれるように

  • 投稿者: 花瓜草   [2020年 08月 09日 15時 06分]
人刀一体の境地。全てを切り捨てる代わりに、全てを斬る力を得ようと二度の生をそれに費やしていく。

剣に生き、剣に死ねなかった前世。報いるために与えられたのは、手弱女の体で生きる今世。
どちらもただひたすらに、頂を目指しもがき続け歩いていく。

いわゆる前世が男で今が女という、TS要素を含む小説ですが「tsモノ」ではないのでご注意を。狂った武芸者がその道を極めようと歩き続ける、rookな物語です。
登場するキャラクターそれぞれが胸に熱を孕んでおり、それを臆すことなく曝け出し合うことまさにrook'n'rollな小説となっています。

武芸に重きを置いた小説を読みたい方、ぜひこちらの小説をお読みください。きっと満足できますよ。

美剣を胸に抱き、躰で汗かき血を流せ。刻め命の歌

 病でくたばってしまい、なんか女になっていた。
 しかも超美人だ。おっぱいじゃま過ぎてテーブルに乗っけるのが楽で仕方ない。

 剣鬼だった男はうっかり異世界に転生してしまったらしい。しかも貴族令嬢である。前世の記憶などある所為で着道楽はそのままに相変わらずの剣鬼に育ってしまった。この場合は剣姫と呼ぶべきなのだろうがそんなに綺麗なものでもない。

 臓腑をまき散らし、糞便と血潮に脳漿を破裂させ、正義も悪もあったもんじゃない戦いに身を置くしか生きるすべを知らないものは転生しても生き方を変えられなかった。
 勇者に魔王、剣士に暗殺者。友人に従者。死ぬより怖いものはあるか。捨てられない誇りはあるか。そんなものはない。歌う聲なく楽器を奏でる手業もない者たちよ。美しき魔剣を抱き、遭いの言葉と死の舞を演じ続けろ。戦いと命の歌が物語を刻む。
 剣よ。rock 'n' rollを奏でろ。

 是非ご一読を。

余計なもののない美しさ。ただ剣者だけがそこにいた

  • 投稿者: 詠み人   [2017年 07月 29日 21時 02分]
このレビューを見るのなら先にベギンフレイム氏によるレビューを見て欲しい。
私の語りたいことを私以上に全て彼の人が語ってくれている。
だが、それでも何度でも言おう。
この物語は美しい、と。

ソフィアが求め、リョウジが焦がれた剣の輝き、全てを斬り捨て、全てを投げ出した果の美しさ。
それこそがこの物語である。
語られる求道、剣に生き、剣に死ぬものたちの剣の道。
勇者も、魔王も、剣の前にはただ斬り捨てるだけのもの。
台詞、間のとり方、心情、地の文とそのどれもが澄んだ音を立て響くのだ。

静けさだけでなく勢いのある戦闘シーンや盛り上がりだってあるし、深まりゆく人間関係もある。
語れることはいっぱいあるが、それでもこの物語はどこまでもひたすらに“剣”の物語である。

これは完結済みの物語である。
だから安心して読んで欲しい。
普段味わうのとはまた違う独特の感慨をきっと得られることだろう。

「世界全てを敵に回してでも。同じ場所に住んでいた誰かだろうと、最強の魔王だろうと、人間相手だろうと、剣聖だろうと、どんな事情があろうと、大仰な運命だろうと。全部、斬って捨ててやる」

剣に生き、剣に死ねなかった武芸者が、異世界で女に生まれ変わってもなお、剣に狂う。
剣鬼ソフィアとその剣戟は蠱惑的な迄に美しい。

この傑作の大きな特徴、それは、語らないことの美しさ。
剣戟の描写から人物の生い立ち、思いや目的その他を、あえて書かない。
不思議とそれによって、一文が印象的に映え、一つのセリフから言外の思いと積み重ねが響き渡り、その剣戟は美しく仕上がり魅せる。

繊細で大胆な文章の業を魅せながらも、この物語全体には喧しく澄んだ音色が響き渡る。

楽器は剣、音をかき鳴らすは剣士と強者。
その鋼の音色は、思わず道を踏み外してしまうような、狂気で正気な、魅力的で蠱惑的な、乱雑で静謐な、最高にロックな一曲の音楽。
死合の乱舞の中、彼らは悠久にも感じる刹那の間際に、剣戟で語り合う。

さぁ、共にロックンロールを奏でよう。どちらかが倒れるまで。どちらかが死ぬまで。
剣戟を、かき鳴らせ。
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