イチオシレビュー一覧

★原稿用紙１１枚、４４００字という狭小な制限の中での序破急のしっかり整った物語を作り上げるのは大変な困難を伴う。物語として濃さとストーリーの起伏。要所要所を抑えた演出と表現。少ない登場人物たちを確立させ、なおかつ文章を削りすぎない精緻なバランスが必要となるのだ。作者が本作にてどれほどの苦労をしたか想像できるはずだ
★作品のキーワードである『歯車』と言う単語に対して、作者は冒頭にて機械式の人造人間である『オートマトン』と言うモチーフを読者に提示する。そしてスチームパンクロマンの香りを匂わせてくる。だが作者は読者の思惑を、鮮やかに上回ってみせる
★読み進めて行けば作中の〝歯車〟が作品の世界観に根ざした価値ある物である事に気づくはずだ。そしてなぜ、オートマトン少女がハンデを負っているのか。そのハンデが何を意味しているかに気づくはずだ。その時あなたは『グレイス』の心の痛みの理由を知るはずなのだ

没落した名家の令嬢アデルと、昔からその家のものであった機械人形（オートマトン）グレイスは、二人きりで暮らしていた。
生きていくためのお金を稼ぐためにアデルは慣れぬ仕事を頑張り、グレイスはそんなお嬢様を健気に支える。
お互いを思い合う二人の、これは別れの物語。

　＊　＊　＊

人間のような情動と、機械人形らしい思考回路を持つグレイスのキャラクター性が素敵でした。

また、お互いを思い合う優しさがゆえに別れることになるのは切なかったです。
物語の終わりにおきましては、二人それぞれの未来に幸あらんことを祈らずにはいられません。

4,400字の掌編でありながら、物語の情緒をたっぷりと含む素敵な小説です。
あなたも是非お読みください。