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純粋無垢な子供にしか見えない、と思ってた。

  • 投稿者: 成宮りん   [2018年 03月 13日 22時 32分]
森に住む妖精さんは、心の純粋な子供にしか見ることができないって言う話を聞いたことがありますか?
でも、当の妖精であるヒロインはは現実主義者で、夢を見ないのです。

【魔法つくり大学に通うお菓子の精の女の子】
進級に必要な単位を得るため、この世界に住んでいる妖精の種族全員に会いに出かける。

あらすじを見たら、ファンタジーで可愛らしい世界の物語かと思いますよね。
でも読んでみたら、まったく予想を裏切られました(良い意味で)

『天にも届く高い塔を作り続けている』七日しか生きられない【七日妖精】

……なんのためにそんなことを……?

それはきっと、作中で明かされることでしょう。

【限られた時間の中でどう生きるか】

その問いに、あなたならどう答えますか?

どうでもいいですが、フレンチトーストにアレはないでしょ。
お菓子の妖精だろ?!!

……詳しくは作中で。

7日の生涯。神が世界を作ったのと同じ時間。

七日妖精。
その名の通り、彼らは7日しか生きることが出来ない。
7日間でなにをする?
彼らは、7日で次世代に移り変わるサイクルのなかで、バベルの塔を作った。

志雄崎あおい初の(最初で最後のかもしれん)純文学。
特筆すべきは、これがファンタジーではないこと。

旅行記だ。
そして、フィールドワークでもある。

なんのことだか意味不明ってか?
結構。
じゃあ、ミステリーで紹介しよう。

Q:「もし、七日しか生きられないとしたら君はどうする?」
A:塔を作る。


彼らは何の為に生き、なぜ塔を作り続けているのだろうか?

Q:「もし、80年しか生きられないとしたら君はどうする?」

私が私である事、貴方が貴方である事

アイデンティティが大きなテーマになっている作品です。
可愛らしい妖精の設定とは裏腹に、物語はお菓子のように甘くはありません。ちょっとビターな味がします。

私が私であるとはどういう事か、貴方が貴方であるとはどういう事かを、妖精同士の種族の差異として突きつけられます。
七日しか生きられない妖精たちのアイデンティティーーメンタリティは、主人公であるお菓子の妖精とは違いすぎます。

「共感を求めているわけではありません。ただ、理解してもらえれば結構ですから」

という七日妖精のセリフがありますが、主人公にとってはその理解すら追いつかない、それほどの差が彼らの間にはあります。

ところが同じ種族の中でも考え方の違いがあることを主人公は知り、主人公と共に読者も揺さぶられます。

答えの出ない問題だからこそ、考え続けなければならない。そう思わせてくれる作品です。

たった7日の命。妖精達は、何を想う。

 魔法つくり大学に通う此花月茶ノ花は、進級に必要な単位を落としてしまい、留年の危機に陥ってしまう。その窮地を脱する条件として、夏休みを利用したフィールドワークを命じられた彼女は――「七日妖精」と呼ばれる種族のコミュニティに訪れた。
 生まれてから僅か7日感で命を落とす、短命の種である彼らは「個」を捨て、自身達の存在を証明すべく天を衝く塔を建てていた。あまりにも短い、一生の中で羽ばたき続ける彼らに、茶ノ花は何を想うのか――?

 穏やかな世界観でありつつも、切なく苦い心情描写をあるがままに描いた、ファンタジー作品です。
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