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鉱物は自然の美しき悪戯。珠玉の作品は魂の証。

  • 投稿者: 水菜月   [2019年 04月 10日 13時 32分]
タイトルの「わかっているよ、メフィストフェレス」
悪魔との契約を確認する言葉。

最終話にこのセリフが出てきた瞬間、どうしようもなく胸が締め付けられました。
ああ、こんなことになっていくだなんて。わかっていても悲しい。

主人公の朝霧が、自分の命を賭けても助けたい程に大切にした相手。
純粋無垢な彼女のために捧げた自分の人生。
それでも二人の仲睦まじい様子は救いだった。

朝霧の美しさは魔女たちをも魅了する。
朝霧も人の子だ。愛する相手がいても、誘惑に弱い人間だ。
それでも、どこまでも抗い、天使をも拒絶する強い精神。

塩キャラメルがすきな悪魔は、愛嬌があって、彼の相棒のようで。
迷いが生じただろう。いつしか朝霧に魅せられていく。
「お前がいて良かった」などと言われる悪魔がいただろうか。

鉱物が射し示す光のように、魅惑的な作品です。
そこかしこに散りばめられて、受け取れることが贅沢です。

君の世界が救われるなら、僕は悪魔に魂を渡したってかまわない

窮地に陥った大切な人を救う手段がある。けれど、そのためにはあなたの犠牲が必要だと言われたら、それでもあなたは相手の救済を望むでしょうか。『ファウスト』を下敷きにしたこの作品は、美しい鉱物のきらめきとともに、人の心が迷い揺れ動く様を丁寧に描いていきます。

主人公は華やかな容姿を持つ少年、朝霧。過去の出来事をきっかけに周囲から距離をとる彼は、魂の美しさゆえに多くの者を惹き付けます。無欲で純粋に他者の幸福を願う無垢な輝きは、悪魔も、魔女も、天使でさえも虜にするのです。

そんな彼が想いを寄せるのは、とある不幸な少女。彼女の世界を守りたいと願った彼は、契約を申し出た悪魔の手をとります。その先にあるのがたとえ悲劇的な幸福であっても、回避する術はありません。

「とまれ、お前は本当に美しい」

その言葉の余韻を感じながらあなたは涙するでしょう。どうかどっぷりとこの耽美的な世界にひたって下さい。

魂と引き換えに、それでも望みが叶うとしたら、あなたは何を望みますか?

「お前の望みを叶えよう。お前の魂と引き換えに」
 悪魔メフィストフェレスは少年朝霧にそう契約を持ち掛けます。
 彼の答えはこうでした。
「ある少女の世界の救済を」

 この大き過ぎる望みは叶えられ、少しずつ少女伽耶の世界は優しいものに変わっていきます。
 そしてまた朝霧と彼女の関係にも変化が訪れ……。

 純真な主人公に対して、個性的な悪魔、魔女などそれぞれの思惑で動くキャラクター達もまた魅力の作品です。
 しかし、何と言っても特筆すべきは圧倒的な描写力によって描き出される世界観でしょう。
 恐ろしく精緻な文章は、まるでこれ自体が一つの魔法の様に読者を小説の世界へと誘うのです。
 
 悪魔と契約した少年。
 一体、彼の運命はどういう結末へと向かうのでしょうか。

 物語は今クライマックス目前です。
 この機会に宜しければ皆様も、この妖しくも美しい世界に浸ってみられては如何でしょうか。

悪魔と契約を交わしたのは、汚れなき心の少年だった

「魂と引き換えに、どんな望みでも叶えてやろう」

悪魔に持ちかけられ、本当にどんな願いも叶うのなら、人は何を願うだろう。

一生遊んで暮らせる金か、名誉か、それとも美麗秀麗な伴侶か。

この物語の主人公、朝霧が願ったのは世界の救済。
思いを寄せる少女が幸せになることだった。

朝霧と契約した悪魔メフィストフェレスは、時に人の姿、またあるときは黒猫の姿を持っている。
朝霧を惑わそうとするも、なかなかうまくいかず……。

優しき少年と悪魔の物語、ぜひご一読ください。

詩のように美しい文体

  • 投稿者: ゆいみら   [2018年 03月 14日 17時 08分]
作者様の深い知識が垣間見れる物語です。文章や構成は、まるで詩を読むように美しく、まばゆい宝石を愛でるかのような豊かな表現力は、読んでいて心地よいです。
主人公は決して幸福ではないかもしれませんが、そのとつとつとした心情に優しさと儚さのようなものを感じます。
気持ちがささくれだつ時には、こちらの物語はいかがでしょう。読後は、じんわりと温かいと思いますよ。

僕の中の悪魔。ウォーターの中の黄緑色。

完全な純潔は存在するのか。
真に一つの側面しか持たないものは、あるのか。
と、この作品は、身近な恋を題材にして語りかけて来ます。

愛しい人は、聖域。
しかし、愛しい故に、触れたい。触れ合いたい。

慕う心と独占欲。
自分が愛しい人を欲すと同時に、
相手もまた、自分を欲していることを、どこかで願う気持ちと、そうでないことに対する怯え。

複雑な表裏一体の感情のせめぎ合いを、ちょっと茶目っ気のある悪魔を介することで、実に魅力的に描いています。

清と濁。ウォーターの中の黄緑色。
僕と悪魔。僕の中の悪魔。

幻想の中にある、確かな青い煌めきが、ここに。
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