イチオシレビュー一覧

異世界ものではあるが、主人公ボガドが、過去に挫折を経験し、屈折も抱えている一人の人間（中年）として困難な世界の中で生き抜いていく話。
ボガドは寡黙であるが、人生経験を踏まえた人への優しさは、さりげなくも心に染み入るものがあり、また、過酷な状況の中で不器用ながらも自分の筋を通そうとする姿は、そのリアリティと相まって、人間的、魅力的に描かれている。
更に周囲の登場人物も、ボガドと出会いと別れを繰り返す中で、その人間性を浮かび上がらせ、一層、この作品の深みを増している。
また、ネタバレの部分があるが、王から褒美を尋ねられた際のボガドの回答は、良い意味で読者の予想を裏切り、また作品の目指す方向が明確となる見事な展開であった。
本作品は異世界とハードボイルドな要素の組合せにより他の異世界ものとは一線を画する独特な世界を構築し、かつ、良質な内容である。一度、読んでみることをお勧めする。

　この作品の主人公は数々の挫折を経験し”夢”ではなく”現実”を生きる『労働者おっさん』である。

　中年おっさんがファンタジー世界に飛ばされ、転生先で大活躍する話はなろうに溢れているが、この作品ではその様な簡単なご都合主義的な展開は用意されていない。

　人生の渋みを知る中年労働者おっさんはファンタジー異世界に『夢』ではなく『現実』を見るのだ。

　やはり異世界にも『異世界の現実』があるのだ。

　主人公の思考・視点は現実的である一方、ある意味「卑屈」といってもよいくらい屈折している。それはこれまでの人生の積み重ねというものを感じさせるものである。

　異世界でも夢ではなく現実に生きる労働者おっさんの生き様、”重み”を感じさせる現実的な異世界の描写の数々は、チートご都合展開に慣れてしまった読者にとって非常に新鮮味を感じさせるものとなっている。