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かつて天上にいた頃の記憶を探して

  • 投稿者: 三羽高明   [2021年 07月 24日 13時 32分]
中世が舞台のローファンタジー作品。主人公は、いつも星空を眺めている少年です。

ずっと遠くばかりを見つめている――そんな彼の在り方は、自分の生活に関わることにしか関心を持たない周囲の者たちとは真逆で、少年は皆から変わり者扱いされていました。

ですが、少年が星空を眺めていたのには訳があったのです。実は彼は、『ここではない場所』で暮らしていた時の記憶があり、いつかそこへ帰りたいと考えていたのでした。そして、その決意を実行します。

その結果、少年は消えてしまいました。しかし彼は、皆に素晴らしい贈り物を残してくれていったのです。

不思議な少年が起こした、小さくて大きな奇跡とは? 静かな語り口が、物語の神秘性を高めてくれています。

夜空を見上げる少年の瞳に映るは――。

あなたは、あなたが住んでいる世界の事をどこまで知っていますか?

大抵の人は、この世界の事は大体知っていると言うでしょう。

しかしみなさん、また質問をしますが……それは、TVなどで知った知識ではないですか?

実際に歩き回って得た知識、というワケではありませんよね?

作中の主人公の少年は、まさにそんな世界の中で育ちました。

心配してくれる人は、勿論いました。
だけど本当の意味で、彼らは少年の理解者とは成り得なかった。

しかし少年は、心配した者が思ったほど、悲観してなどいませんでした。

それは、少年が。

この世界の“真実”を知っていたからです。

果たして、少年が知るその“真実”とは何か。
読後はきっと、夜空を見上げたくなるような……寂しくも素敵な結末である事を保証いたします。

STARGAZER “星を見る者” 輪の外にいてもなお、その少年は星を見上げ続けている。彼の瞳には何が映っていたのだろう。

夜の帳が降りるたびに、少年は塔の最上階まで登り、そこから星空を見上げた。それは誰かに言われてやっているのではなく、彼の意思で行っていることだった。
人々は、そんな彼を変わり者扱いした。
少年は言った、ここに生まれる前、自分はもっと遠くにある星で暮らしていた。この星よりも豊かで美しく、家族がたくさんいた。自分がこうして夜ごとに星を見つめるのは、故郷を懐かしみたいがためなのだと。
そしてもうじき、自分は星に帰る――つまり、『消えてしまう』ことを示唆していた。
誰も信じなかったけれど、七晩が過ぎた日、彼は本当に消えてしまった。
しかし彼が消えても、残されたメッセージは人々の胸に残され続けていた。
彼は誰だったのか、何者だったのか? 明確な答えは存在しない。

どんなに手を伸ばしても届かない、遥か彼方で美しく煌めく星々。
見上げながら、星へ行った少年の軌跡を感じてみるのも一興だろう。

町の人から変わり者と呼ばれた星空を眺める少年の物語。ラストを引用しましょう。「人々は、星空を見上げるようになった。 少年の心を、今はみんなが持っている」

  • 投稿者: 水渕成分   [2021年 05月 05日 08時 21分]
家紋武範様主宰の「隕石阻止企画」参加作品です。

2092字のローファンタジー。しっとり落ち着いた感じの文章はとても読みやすいです。また、挿絵もストーリーにとても合っていて良いです。ぜひ、こちらもご鑑賞ください。

主人公は変わり者の学者に育てられたみなし子の少年。やはり彼も町の人が言うには「変わり者」に育ちます。

毎晩、夜空を眺める「変わり者」に。ただ、一人の少女だけが彼の真意を聞きます。

そんなある日起こったこととは……

ここから先は実際に読んでお確かめください。

ただラストをここに引用しましょう。
>人々は、星空を見上げるようになった。
>少年の心を、今はみんなが持っている。

星々の世界やミヒャエル・エンデが好きな方、こちらへどうぞ。まちがいなくお好きなはずです!

  • 投稿者: 汐の音   [2019年 12月 03日 12時 28分]
 ーーカルカレスの街はずれに、いつも星空を眺めている少年がいた。

 冒頭からしずかに。しずかに始まる物語。少年はいつも夜空を眺めていた。正しくは星を。宇宙の向こうを。

 地上に暮らす人びとは、少年のように星を眺めたりしません。地に実る恵みに興味はあっても、星が何かをくれるわけではないから。

 けれどーー?

 とても短いお話です。ゆっくりと読んでも、おそらく数分間。しかし、ひととき立ち止まって目を落とすに値する物語です。
 ことばから。行間から匂いたつように一人の少年の存在が浮かび上がり、心に染みてゆきます。
 ーーーとても、しずかに。

 あなたは本に何を求めますか?
 私はいつも、そこにしかない物語を求めています。
 ほんのりSF。ほんのりとファンタジー。
 やさしく美しい文章で綴られる、ちいさな確かな切なさをあなたにも味わってほしい。

 どうぞ、手にとってご覧ください。
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