イチオシレビュー一覧

　数多の制約を設けた上で、クローン人間の出産が「解禁」された世界。ある1組の夫婦は幼い我が子を取り戻すために、その世界ならではの選択を迫られる――。

　倫理や道徳という問題を置き去りにして、クローンの人間を作り出したとしても。同じ環境で育てたとしても。そこで生まれ育った彼らが、オリジナルと同じような人間になることはない。
　例え家族の時間を巻き戻したとしても、その周囲の時間は進み続けている。誰にもその流れは止められないし、何もかもが元通りになることは決してない。
　どんなに技術が発展しても、どんなに精巧なクローンだとしても。かつてそこで育まれていた愛と思い出は、誰にも複製できない。

　そうと知りながらも。人は、クローンを望むのだろうか。
　人と家族と、クローンを巡るこの作品は、とある一家の苦しみを通して読み手にそれを問いかけています。是非、ご一読ください。

近未来の日本では、主に不妊治療目的で、『ヒトに関するクローン技術等の規制』に関する法律が整備されていた。人の遺骸からのクローン生成が可能となった社会で、遺された者は何を望むのか。

クローン人間は、亡くなった人間の完全なコピーにはならない。同じ遺伝子を持っていても、胎内で発現する特徴まで同じになるとは限らないし、生まれた後の環境の相違が生育に大きな影響を与える。クローン人間は、亡くなった人間とは別の命なのである。

亡くなった人がそのまま帰ってくるわけではない。それでもなお、私は、そしてあなたは、大切な人のクローンを望むだろうか。答えの出しようのない問いへの一つのヒントが、この物語の結末に用意されている。

これ以前に書かれた作品『ニセモノの夏』では、「愛情がホンモノであって欲しい」という感想、レビューが多かった。
多くの人は、そうであることを望むのだろう。

タイトルの通り、「大切な人を複製」しようとする本作。
もし、「愛はホンモノであって欲しい」と思い、なおかつこの問いに「YES」と答えてしまうかもしれないなら。この質問にも答えてほしい。

「あなたにとって『大切』ということと、それを『複製する』ことはどういう意味を持つのか」

「ホンモノを望む」ということと、「ニセモノを自身の手で作る」ということ。両立するだろうか。
わたしには、理解できなかった。

自分で納得できる理屈を持たないなら、タイトルの問いには答えない方が良い。
どちらを選んでも、幸せにはなれないはずだ。

クローン技術……その技術のみに目を向けて考えてほしい。
あなたは愛する人のクローンを作らないと言えるのか？
人生とは出会いと別れの連続で、そこには永遠の別離というものも当然含まれる。
そして、ご自身の身になって考えてみてほしい。あなたは本当に亡くなった永遠に会えない愛する人のクローンを作りださないと言えるのか？

当然、そっくりそのまま愛する人の複製が生み出されるならば是とされるかもしれない。
だが、クローンとはそう都合のいいものではない。あくまで同じ遺伝子パターン、同じ容姿を持つだけで、間違いなく別個の個体だ。
亡くなった命が戻ってくることは、絶対にありえない。
でも、それでも……全く同じ環境、同じ対応を用意し、行ってやれば、と諦めの悪い人もいるかもしれない。
その思い自体は決して否定はできない。
だからこそ、この作品は貴方にこう語りかけるのだ。

「あなたならどうする？」

と……