イチオシレビュー一覧

　薬の調合を生業とするシンディは、幼馴染みで魔術師のベンジャミンに惚れ薬を依頼されたため、その依頼を受け入れる。　　
　材料は手に入れるものが難しいものばかりで作るのは大変だと思っていた彼が、懸命にそれらの材料を取ってくるのだ。
　そこまでして惚れ薬を渡したい相手は一体誰なのだろうと、シンディは寂しく思ったけれど……。

　登場人物はシンディとベンジャミンの2人だけで、設定も王道なので、展開も読めるのですが、緻密な文章であるため、読んでいて胸がキュンキュンしてニヤニヤが止まらない作品でした。
　本当に2人が愛らしくて、素敵な作品なので是非今1度ご覧ください。

家紋武範様の「看板短編企画」参加作品です。

５３００字ちょっとの異世界恋愛。テンポ良く読みやすい文章です。

主人公は薬の調合を生業とするシンディという女性。彼女の一人称視点で物語は展開します。

発端は彼女が小さい頃から面倒を見ていた三歳年下の魔術師ベンジャミン。彼が「惚れ薬」の作成を依頼して来ます。

「惚れ薬」がほしいってことは好きな人が出来たってことですよね。

シンディの心は揺れます。でも、真面目な彼女は真摯に薬を作っていきます。

この恋の行方は？　そして、「惚れ薬」の正体とは？

年下の彼への恋心を秘める可愛らしい薬屋さんの心の揺れにキュンとする作品です。

　如何なる強敵、困難、試練にも立ち向かう勇気と若さがあろうが、好いた女性に好意を伝えることは過酷を極める。それが幼く、そして相手が年上の親しい間柄なら尚更だ。

　しかし、彼は傷付きながらも強敵を退け、長く苦しい困難を乗り越えた。それは好意を伝えることより難しい事かも知れない。そして彼は己の意地と信念に従い最後の試練へと立ち向かう！

　甘く切ない最後の試練を乗り越え、無事彼は男を見せられるのか！怖いけど伝えたい、好きな女を物にしたい想いが辿り着いた『惚れ薬』の真価の程は如何に――――！！

ネタバレにならない程度に上手くしたためる筆力が私にはないけれど、それでも感じたことはしるしたい。

本作は実に’わかりやすい’話だ。登場人物はシンディとベンジーしかいない。悪い意味で言っていない。二人だけだからこそ、二人だけにフォーカスされているからこそ、たった五千と少々の文字数でも作品に’厚み’がある。理想的な短編の書き方だと考える。

シンディとベンジーの関係はこそばゆくて面白い。彼らの性質、性格を表現する文章はある意味、硬質である。そんな中での’惚れ薬’。ちょっと間抜けな響きを持つそのファクターが微笑ましく思えた。

本当に、たった五千文字、たったの五千文字だ。

その中で伝えたいことを伝えきった作者に敬意を表したい。

読んでみろの一言。
本当に安易で安直で素直で愚直で優しくて読みやすくて心に響く作品だ。

作者自身が一級品である。