イチオシレビュー一覧

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ありのままの現実を見せつけられている感覚、まるでこれはドキュメントの様な作品です。

  • 投稿者: 退会済み   [2019年 08月 20日 22時 19分 ()]
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 主人公の悠介は、ダウン症患者特有の顔立ちと似通っている、健常者です。

 母親から歪んだ教育をされて、精神状態が崩壊してしまった悠介。そして彼は、障害者のフリをして、相手の同情心を誘うという、歪(いびつ)な生き方をする事を覚えてしまうのでした。

 現実世界を模倣した世界観は限りなくリアルであり、その心理描写や背景は、もはや小説の域を超えていて、ドキュメンタリーと錯覚してしまう程のクオリティの高さです。

 単純なリテラシー(善悪)だけでは解決出来ない、現実の問題点に焦点を合わせ、それをまったく美化する事無く、ありのままの現実を突きつけられている感触を覚えました。

 衝撃的な現実を炙(あぶ)り出したかの様この作品を、目を背ける事無く、直視してご覧になって頂きたい短編小説です。

醜くてやがて愛しき仮面かな

  • 投稿者: 九藤 朋   [2019年 08月 20日 22時 04分]
私は美しいものを愛でる。文章、単語、然り。
また、作品一個として見ても然りだ。
では、私がこれからレビューを贈ろうとするこの作品は「美しい」か?

否。

なぜなら『魔除けの仮面』は美醜を超えたところに、眩い光降るカタルシスがあるからである。

ダウン症というデリケートな題材を扱うことに、賛否は分かれるだろう。自らの顔立ちを逆手に取り生き抜こうとする主人公のしたたかさは、だがやがて木綿のように擦り切れ、ふさり、と地に落ちる。

ここにある種の「虚」が生まれる。その「虚」は、作者が決してダウン症を軽んじていないことを読み手に伝える。

そこからである。
雨が降る。雨が降り、彼は。

見届けていただきたい。
そしてあなたであれば、この仮面をどう扱うか。
ぜひ、自問して欲しい。

「武器」の使い道

  • 投稿者: 小泉 洸   [2019年 08月 18日 14時 40分]
障害者と健常者、弱者と強者。
このような壁を乗り越えるといった「安い」善意からは最も遠いところにある物語です。

善悪の価値基準とは別の暗い通路を歩む主人公の小説前半の生き方に嫌悪感を感じる読者もいるでしょう。またこのようなテーマを選ぶ作者の心情を図りかねる方も多いでしょう。

しかし最後まで読んでみてください。主人公が「小説後」にどう生きるか興味を持つことになる展開が待っています。

自信を持ってお勧めできる小説です。

僕等には皆『個性』がある。

  • 投稿者: 雷然   [2019年 08月 18日 14時 13分]
先天的であれ、後天的であれ、僕等は皆少しずつ違うところがある。五感の強弱や、ある分野における能力や、物事の好き嫌い。
それらは、才能や個性などと呼ばれたりする。

尖った個性はときに劣等感を生む。優越感を生む。

本作の主人公は外見に特徴があった。
それは美醜を超えて、主人公にある種の“力”を授ける。
仮面の力である。

彼の顔を彼自身はどう思ったのだろう、呪詛の対象か、愉悦の象徴か、そして力とどう向き合うのか。

尖った魅力とストーリーの本作。その個性を是非体感して下さい。良作です。

自身の「特徴」に依存し生きる似非障碍者の人生。鋭利な言葉遣いに引き込まれる物語

  • 投稿者: やまたけ   [2019年 08月 18日 14時 06分]
主人公悠介は健常者であるにも関わらず、ダウン症特有の外見のため周りから「特別扱い」をされる。

幼少の頃はその事に違和感を感じつつ、自分は他の人間と「違うようにできる」事に気づいた時、悠介は己の生き方を見出す。

高校時代、所謂ヤンキーと呼ばれる連中にもその「スキル」は有効だと気づいた悠介は、チートとも言える程効果のあるそのスキルを活用し、益々周りの優しさや思い遣りを利用する生き方を選択していく。

それはとても楽な生き方。だが当人の本質を誰も見ようとはしない。否、見せないからそうなってしまうのだが。

最終話、行動した「それ」はただ無垢で純粋な悪意から。自己肯定の出来ない生き様を顕した様な、自分勝手な行動。結果ヒーローになったのだろうけれど。

歪で、何処か共感できる不思議なリアリティを感じる物語。繊細な文章力と語彙力が、より一層読者を引き込みます。

お薦めです。

その温情を『糧』に生きた彼は━━シビアで魅力の塊

  • 投稿者: 退会済み   [2019年 08月 18日 11時 46分]
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 顔立ちが所謂『ダウン症』の健常者の少年『悠介』は、その見た目故に悪意のある言葉を浴びせられ、心を壊したその結果、『ダウン症』のように振る舞うようになってしまう。

 まわりからの扱いもダウン症の人へのそのものとなり、悠介はその人達からの『温情』を己の『糧』のようにして生活をしていたが━━

 この作品は、ダウン症の健常者という、かなりシビアな内容で描かれた作品です。しかし、そのテーマ故に読む人に様々な後味やメッセージ残す、魅力が詰まった作品です。

 このダークな雰囲気で展開されるストーリーの先には、一体何が待ち受けているのでしょう。それは読んでからのお楽しみであり、それは皆さんも体感するべきだと、僕は強く思います。
 

与えられた安穏と、損なわれた自尊心

周りの腫れ物に触るような偏見を逆手に取り、「ダウン症患者に見える顔立ち」を「魔除けの仮面」として安穏と生きてきた主人公。

しかし、彼の中の自尊心は大きく損なわれていて、その日常は決して幸福そうには見えません。そんな主人公がある事件を経て変化していく様子には、かなり心を動かされました。

人の心の奥底に渦巻く醜い感情と、それだけでは無い「なにか」が丁寧に描写されており、文章もスルスルと頭に入ってきて読みやすいです。
扱いの難しいテーマを見事書ききった秀作。ぜひご一読を。
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