イチオシレビュー一覧

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私は、人を傷つけたことがある。

本作の主人公、吉田彩。
年相応の無邪気さで明るく振る舞い、仲間たちとコントめいた小気味いいやりとりをする彼女は、見ていて楽しい。
そして時に怯えたりビビりながらも、目的のために猪突猛進する姿に励まされる。

けれど彼女の最大の魅力は観察眼の鋭さにある。
相手の嘘や演技を驚くほど鋭く見抜く。その理由は恐らく、過去の過ちにある。
大切な人を傷つけた。苦しめていることにすら気付けなかった。そんな自省と悔恨が、彼女の眼差しを強くするのだと思う。

題文からして自分語りで恐縮だが、私も人を傷つけてきた。すでに鬼籍に入って取り返しのつかない相手もいる。
だから古傷を抉られるような気持ちで読んだ。
けれどページをめくるのを止められず、こうして下手なレビューまで書いている。

これは暗い物語ではない。
繰り返しになるが、彩の姿に励まされるのだ。だから読むのを止められなかったし、最後まで見守りたいと思う。
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