イチオシレビュー一覧

貴族の娘である主人公が、神父に胸の内を明かす短編。
彼女が愛した男には、既に身分違いの平民の恋人が居て。
正妻として嫁いだものの、三年間白い結婚のまま、離縁されることに。
彼に愛されたかった。あるいは憎まれたかった。
それでも、彼の幸福を壊すことは選べなかった。
矛盾を自覚し、なお彼を愛しているという言葉の、なんと重いことか。
確かに悲恋としての一面もありますが、これは……
背筋が凍るような感覚を覚える、とても静かな物語です。

この物語は夫であるあの人との結婚生活の終わりを迎えた女性の語りで進む。
彼女の元にやってきた神父様はその話を聞くのだが。
悲しいこの女性の境遇と立場に同情を禁じ得ない。
妻であるという矜持で保っていた心は終わりを迎える事で限界の状態になる。
それを聞いていた神父様と女性のやり取りの中に見えるものとは何なのだろうか？
是非、ご一読いただきたい。

ただ「正妻」としてお飾りの生活を三年間も過ごした主人公は、屋敷を去る前に神父に心の内を話す。
そこには彼女が心の奥底にしまい込んでいた本音の数々が含まれていた。
彼女にとって、この三年の「結婚」生活は辛く苦しいものだった事は想像に難くない。
彼女は愛されたかったのだ。
あの人に触れられる事を心から望んでいたのである。それが叶わない夢だと知った時、そして「結婚」生活が終わりを告げた時、彼女は何を感じたのだろうか。
女性の悲しみが深淵から湧き出ているような作品である。