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観察してみよう、ある世界の興亡を。

  • 投稿者: 橘 塔子   [2020年 01月 13日 18時 13分]
 ニホンミツバチの四季を描く短編連作。ミツバチの視線を通して、彼女ら(彼ら)のコロニーの興亡が語られる。

 いわゆる動物擬人化ものだが、生物学的整合性を保ったまま表現されるキャラクター性が素晴らしい。
 姉妹を皆殺しにして戴冠する女王、女王との一度きりの交合に命を懸ける雄たち、恐るべき合理性で巣を運営する雌たち――人間的な情緒で色づけしつつも、ミツバチの行動原理から踏み外すことはない。うっかり感情移入すると、その壮絶な生き様に言葉を失ってしまうほどだ。

 次代の要員となる子供を育て、外敵を廃し、コロニーを持続していくミツバチのシステムは、人間社会のそれよりもずっと巧妙で非情である。個々の生死への感傷はそこにはない。まるでコロニー=世界こそが意思を持つひとつの生命体であり、ひたむきに役割を全うする彼女らは細胞のように思えた。
 小さく偉大なミツバチのドラマを、息を飲んで観察してほしい。
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