イチオシレビュー一覧

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骨太の世界観なのに読みやすい! キャラ読み、知識好きどちらも満足できる物語に出会いました

  • 投稿者: なななん   [2021年 12月 24日 06時 49分]
この物語は12世紀末のヨーロッパを舞台に医学探究への道と貴族社会の謀略サスペンス。

「悪魔」と噂され幽閉された主人公ヨハン=アルブレヒトの前に現れた侍女ヴィオラは、生い立ちからの知識と無心な受け答えでヨハンに認められ「ヘカテー」と新たな名をもらい側仕えとなる。

この国に生まれながらもその黒髪、黒目の風貌から異邦人とみられ孤独だった少女ヘカテーがヨハンから医学を学び成長していく姿と、ヨハンの生き様その思考カリスマに魅せられた周辺の人々との語り合いにいつの間にかのめり込んでいきます。

また、この時代ならではの医学的見地、その発見を幽閉された状態で市井広めていこうとするヨハンの智略に唸りながらも、それ故に定められた運命になんども心がゆさぶられました。

ぜひ一度この物語の始めを読んでみてください。たった数行で引き込まれ、あっという間に最後まで読み進めてしまいますから。


これはまさしく『愛』の物語だ。

  • 投稿者: みち治郎   [2021年 07月 12日 15時 13分]
華々しい戦いのあとにも、人生は続く。
敗者には、癒えない傷跡を残しながら。

活版印刷が発明されたのは、この物語で描かれた時代から更に先のことで、清潔にするということが徹底されたのは我々の生きる時代のほんの少し前になってからだ。

常識に果敢に挑む才気煥発な若者たちと、そのカリスマに集い、礎になることを望む者たち。
死とはそこで終わりなのだろうか。死者が生者に残す物と、それを継いでいくために必要なこと。
主人公のヘカテーによって弔われた人々が――違う道を歩み、道半ばに斃れた者も含めて。
真実の愛へと辿り着いていくのが美しい構成でした。

魅力的なキャラクターたちと、彼らの言葉を、思いを受け止める、深く広い大河が、きっと彼らの歴史にあるのだと感じられる傑作でした。

新感覚医療サスペンス!!

時は12世紀末のヨーロッパ。
塔に幽閉された「悪魔」こと、貴族のヨハン。かつては優秀で優しく、将来を期待されるような人柄だった彼が変わってしまったのは、姉の死がきっかけだった――。
主人公で「メイド」であるヴィオラはひょんなことから彼の専属となり、彼の真の目的に巻き込まれていくことになる。それだけでなく、自身の生い立ちに隠された謎や、隠密たちの謎にも迫っていく、重厚な物語だ。特筆すべきは、医学的なシーンがとてもリアルに描かれているという点だ。時代背景からいうと禁忌的な行為に身を投じ、試行錯誤しながら手技や知識を身に着けていくさまは、医学の歴史そのものを見ているかのような興奮を覚えた。
ここまでのレビューで「難しそうだな」と思う方もいるかもしれない。だが、安心してほしい。語り口は極めて読みやすく、後書きに解説もついている親切設計だ。ぜひ多くの皆様に読んで頂きたい作品だ。

知を求める道行は困難にして遠大。だが塔の悪魔と異邦のメイドは理想を求め歩み続ける

  • 投稿者: 時田翔   [2020年 10月 30日 23時 05分]
 イェーガー方伯の次男として生まれながら、あらぬ誤解と噂から塔の中に幽閉され、それでも自らの目的に邁進する男。

 彼の名はヨハン。

 出自不明の黒髪と黒い瞳を持ち、メイドでありながら卓抜した知性と立ち居振る舞いを見せる。

 彼女の名はヘカテー。

 二人が出会い、物語は動き出す。

 帝国の行く末すら左右するほどの政治劇。
 次々と登場する謎多き人物たち。
 それらの織り成す複雑な人間模様。

 時にその残酷な運命に翻弄されながらも、二人は決して踏み止まることなく前を向き歩み続ける。

 その行く先は、宗派、文化をも越えた理想の医療。

 歴史・文化・薬草学・言語学、入念な下調べに裏打ちされた濃密な物語。
 本格派サスペンスとは、まさにこの作品にこそふさわしい

人は悪魔に魂さえ売る。人を守るためならば。

  • 投稿者: 地辻夜行   [2020年 09月 08日 01時 59分]
少女は、塔の階段を一歩また一歩と登っていく。
その塔に住まいという悪魔に食事を届けるために。
食事を受け取った悪魔が言う。『お前が気にいった』と。
少女はまだ知らない。その悪魔との出会いが、自身の運命を大きく変えることになるのだと。
自身も悪魔の一味に身を落とし、人を救うための道に足を踏み入れることになるのだと。

文章がたいへん読みやすく、すらすらと読み進めることができる。表現もしっかりしていて物語の内容が胸の中にすんなりと入ってくる。そして、その内容が面白いときているのだから文句のつけようがない。
この作品が無料で読めることに感謝の気持ちしか浮かんでこない。是非貴方にも読んでいただきたい至高の作品。

人体を探求する者。それを支える者。これは心揺さぶる物語。

  • 投稿者: 橋本洋一   [2020年 07月 22日 23時 15分]
医学が異端で、神学が先端とされた時代。その流れに逆らうように、人体を探求する忌みされた貴族――ヨハン=アルブレヒト。孤高にして孤独だった彼の元に一人の異邦のメイド――後にヘカテーと名付けられる少女がやってくる。二人は互いに惹かれあう。しかし数々の陰謀が絆を試すように降りかかる。
読み応えのある文章。そして重厚な物語。作者の細やかな描写はまさに白眉。個性ある登場人物の中で、語り部のヘカテーは何を思うのか。そしてヨハンは求める医学を修められるのか。中世特有な空気感が好きな人も、どきどきするサスペンスが好きな人も一読願う。

【塔の住人は真理を求める孤高の貴族】―中世の貴族国家を舞台に外科医学と謀略を舞台とした鮮烈なるドラマが始まる!―【そして知に優れた麗しきメイドが一人】

  • 投稿者: 美風慶伍   [2020年 04月 18日 07時 35分]
■ハイファンタジーの物語の組み立て方には2種類ある。全くのオリジナルとするか、史実の世界をモデルとするかだ

■そのそれぞれに一長一短があるのだが、本作ではユニークなことに12世紀前後の神聖ローマ帝国の周辺をモデルとしつつ、オリジナル要素を加えて実に魅力的な貴族国家を組み立てることに成功している

■そして本作が重要テーマとしているのが〝外科医学〟だ。カソリックの支配下においては外科医学は邪道であり日陰者だった。本作の主人公同様、外科医学を探求する者は異端とみなされた

■主人公ヨハンは貴族でありながら塔に幽閉されている。遺体を切り裂き弄ぶ奇人とみなされている。だがそこに一人の黒髪のメイドがヨハンの真の姿を知ることになる。そしてそれは、複雑怪奇な中世貴族社会をめぐる謀略と欲望と波乱のドラマの幕開けだった

■本作は実に魅力的な登場人物が登場する。その一人一人のドラマを味わってもらいたい
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