イチオシレビュー一覧

▽レビューを書く

不条理な運命に立ち向かう主人公の成長の物語

  • 投稿者: ヨウ   [2020年 08月 17日 14時 51分 ()]
主人公のノブユキ・ニシダは、まるでマッドサイエンティストのような自称"神"に、異世界転移して勇者となり、魔王を倒して欲しいと頼まれる。

ただし、勇者となるには同じく異世界に転移した勇者候補達が持つ、"勇者の欠片"を奪い合って一つに集めなければならない。

"勇者の欠片"の奪い合いに勝ち残って魔王を倒せば、報酬として一つだけ何でも願いを叶えてくれると言う。

拒否すれば存在を抹消され、受ければデスゲームに放り込まれる。ノブユキは納得出来ないままに依頼を受け入れ、殺し合いの螺旋に巻き込まれていく……。


主人公の葛藤やエゴを緻密に描く心情描写や、奥行きのある世界観、作りこまれた個性溢れる登場人物達に、グイグイと作品の世界へと引き込まれます。よくあるテンプレ設定も、組み合わせと描写でここまで面白くなるという好例です。文句無しの良作!

「ああ、奪うって言うのは当然“殺す”ってことだよ?」

タイトルのセリフは、この作品に出てくる神の一言です。

とある理由で主人公を含む13人の勇者を異世界へ召喚した神が無慈悲にも冒頭でそれを告げます。

理由は13人の勇者の内【魔王を倒して願いを叶えられるのはたった一人】だからです。

勝手に召喚されて、勇者にされて、魔王を倒して、それでも無報酬で良いなんて人間はいません。

13人の勇者がそれぞれの願いを持ち、戦い、時には共闘する物語です。

【勇者】【魔王】というと軽いファンタジーなイメージが沸きますが、この作品は重めになっております。

人間らしい葛藤をする主人公など、実に生々しく描写されています。

軽そうに見えて重いというギャップファンタジーが好きならばハマること間違いなしです!

殺し合うのか、それとも助け合うのか

転移物、沢山ありますね。転移して魔王を倒す勇者になってくれ。
よく見る展開、と思います?
この作品は最初から「何か」が違います。

まず主人公を連れ去った神様が怪しすぎる。絶対何かあるでしょー! って疑いたくなります。

そしてそんな神様に突きつけられるのは、13人の勇者候補同士で殺し合いをすること、拒否すれば存在が抹消される。
生き残った者が魔王を倒し、望みを叶えることができる。

そして主人公は飛ばされた先で時に苦しみ、時に助け合いながら殺さない別の道を模索していく。

この世界に張られた伏線は幾重にも重なっているので読み応え十分。続きが気になるストーリー展開、そこにダークな雰囲気が相まって満足すること間違いなしです。

ゲスくない無双しない主人公が、主人公らしくて好印象

突然の召喚を受け、魔王を倒して欲しいと頼まれながら、断ればそのまま死亡。
選択の余地が無い二択ながら、魔王を倒せば願いを叶えてもらえる特典あり。
ただし、13人の勇者の力を集めなければならない上に、願いが叶うのは魔王を倒した1人だけ。
この条件により勇者どうしのデスゲームの恐れがあり、異世界の非情な常識と勇者たちとの考えの違いに主人公は打ちのめされる。

この葛藤は本来あるべき事柄だと思うので、リアル思考の方は共感が持てると思います。

剣の他に珍しい魔法銃を使うことで戦闘の幅を広げ、敵を一掃するチートな火力でないことが、戦略を作り戦闘を盛り上げています。

途中、残りの勇者達の召喚エピソードがあり「これは悪手か?!」と思いましたが、逆にこのキャラの掘り下げが「こういう理由だったのか」とより興味を惹きます。

勇者たちの他に、この世界の人間の陰謀(?)との絡みが今後の展開を期待させます。
↑ページトップへ