イチオシレビュー一覧

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一話にして彩花の蠱惑的な誘いに引き込まれました。

あなたは庭師。
眼前に良家の三女。
短いスカートはたくしあげられて──

この誘惑に抗えますか?

主人公の次郎は「頼まれると断らない」男。

そんな男が、性に興味を持ち始めた良家の女学生とふたりきりになると、どうなるのか。

次郎にセリフはありません。

発達の遅れもみられ、愚かな男に見えます。

しかし、「本当の愚者は誰なのか?」という問いをこの作品は暗に投げかけます。

とにかく登場人物の性格・相性・関係性を描くのが上手いです。

次郎の泥臭い仕事のシーンと、ヒロインの彩花に翻弄される日々の描写も鮮やかです。

次郎と彩花、それぞれの家──良家の長男・次男の対比も本作の見どころでしょう。

人間の愚かしさが、じっとりと肌に迫るような作品です。

まずは一話を、最後まで。

捨てる神あれば拾う神あり

  • 投稿者: 三寒四温   [2022年 06月 05日 16時 04分]
朴訥な主人公は、ただただ人に言われるままに動き、人に言われるままに生きる。自分で判断なぞしない。
なのに叱られ、疎まれ、行き場をなくしてゆく。
これまでよくしてくれた人達も、主人公自身にではなく、彼の立場やステータスに対する好意であって、それらを失った主人公に手を差し伸べる者は誰もいない。

人によって評価の分かれる作品かなと率直に思います。
キーは主人公に感情移入できるか否か。
途中まで読み進めてみて、浅はかな私は単純にイライラが募るばかりで主人公の身にはなれそうもありません。
それもまた著者の狙いのうちだとしたら、参りましたと白旗を上げるしかありません。

今が読み時!タイトル「傷」の意味を共に考えませんか?

  • 投稿者: りすこ   [2021年 07月 30日 12時 46分]
主人公の台詞がありません。
一つもないです。

どういうこと?と思った、あなたに読んでほしい話です。

台詞がない分、主人公が体験したことが自分のことのように感じられて、やるせなさ、人の優しさが心にダイレクトに響きます。

私は「小説を読もう」で話を読んできて、こんな話があるんだ!と衝撃を受けました!

物語は甘くはなく、主人公は知が少し足りない人。尊厳のない扱いされても、流されてしまう。

主人公が酷い目に合うシーンなんかは、主人公に代わって、このやろう!と私が怒り心頭。それぐらい、読んでいると感情をひきだされます。

読んでいて、辛くなるばかりではありません。主人公を手助けする人が現れます。ジーンときます。人情っていいものです。

物語は今、最高潮!
主人公を虐げた人への因果応報をへて、どうなるか全く分からない!

正直言うと、続きが気になりすぎる!

物語が加速した今、読み時です!

だけど生きるってそういうことなんじゃないか

  • 投稿者: 藤乃 澄乃   [2021年 07月 12日 17時 38分]
難しいことは解らない
それが悪いことか?
頼まれると断れない
それが罪なのか

人の話をよく聞き
真面目に言いつけを守る

誰も傷つけたくないし
傷つきたくもない
なのにいつも誰かを
傷つけるし傷つけられる

だけど生きるって
そういうことなんじゃないか

* * *

作中、主人公の次郎にセリフは全くありません。しかしそれでも彼の心中を察することはできるでしょう。
真面目に正直に生きる次郎には、優しい人が集まり、困難があれば助け船を出してくれる。

何事にも動じず(気づかずという方が近いか)、日々淡々と生きる次郎。
無知が悪いのか、知ろうとしない方が悪なのか。
そんなことを考えさせる作品です。

ぜひ読んでみて下さい。

知が足らぬは傷付くばかりだ。

  • 投稿者: くろたえ   [2021年 02月 14日 01時 43分]
次郎は少し頭が足りない。
そして疑う事も頼まれごとを拒絶することも出来ない。
利用され、都合悪くなれば捨てられる。
愚鈍で愚直である次郎は拾われ働き先を得るが、一瞬の気の緩みで死にかねない危険な仕事だ。
仲間に助けられながらも、同時に仲間の足手纏いにもなっている。
それが今後どうなるのか。
彼を巡る女は何を決めるのか。
何も自分では決められない次郎は、最後まで受け身であり続けるのか。
物語は終わらない。

淡々として、無駄のない文章の中で、特殊な仕事の説明をしながらも、他方で次郎の心が置き去りになっている。
いや、次郎の心の動きは全て行動で示されている。
完全な文章なのだ。

私は、この作家に嫉妬をしながらも追わずにはいられないでいる。

格調高い文章で綴られる、裏路地に捨てられた青年の傷

  • 投稿者: 蔵前   [2020年 07月 23日 18時 00分]
第一部からいけないものを読んでしまった子供心に帰ってしまった。
純文学という棚にあったはずなのに、読み進めていくたびに、どこかがしゅんとなってしまう本を見つけてしまった感じだ。

だが、それだけでは無かった。

知らなかったいけない事のせいで、主人公の彼こそ住む場所も何もかも失い、それからどんどんと傷だけを負ってしまうという筋立てだ。

見えない傷。

物語では主人公自身がぼんやりとしているからか、心の中の慟哭がはっきりと見えないが、準備されている舞台によって彼の心を窺い知ることが出来る様な仕立てになっている。

面白い。
この後は、どうなってしまうのだろうか!

嗚呼!
こんな気持ちをまだ読んでいない皆様にも感じていただきたい!

「授業中、国語の教科書の勝手なページを開いて たまたま面白い作品に巡り合った」ような味わいの文学作品です

  • 投稿者: 泰山   [2020年 07月 18日 21時 34分]
頭がいいとは、どんな人の事でしょう?

主人公、次郎はその言葉ともっとも縁遠いところにいる男。
彼は何でも頼まれれば断ることができず、また何かを自分の判断で隠すことも出来ない。
そんな純粋な次郎は、彼のことを玩具の様にもてあそぶ令嬢の彩花をはじめ
周りの人々と知らないうちに互いを傷つけあうことになってしまいます。

しかし、きっと誰も彼を軽蔑することはできないでしょう。
誰より純粋な次郎は周りの人々の無分別を映す鏡でしかないからです。
この作品世界に賢い人は多分いません。

そして、それは彼らの非常識を笑った私もたぶん例外ではないのです。
本当に彼と周囲の人々を愚かと笑えるほど賢い生き物なのか?
私も知らないうちに愚者である事に慣れただけなのでは?

この物語はそんな疑問を淡々とした文体で、しかし艶やかな世界観と共に指摘してくれる。
恐ろしくも美しい鏡のような作品だと思いました。

頼まれれば、断らない。

  • 投稿者: 幸田遥   [2020年 07月 14日 10時 02分]
それが、物覚えの悪い次郎の、唯一の特徴だ。


庭師見習いで、名家に住み込みで働く次郎が、
色々な人から、色々なことを頼まれる。

次郎は、言われた通りにしただけだ。
しかし、次郎の知らないうちに、問題は大きくなってゆく。


会話がないまま、淡々と語られる話。
でも、読むのを止められない。
この作品には、人を惹きつける文章と物語があるから。


気になりますよね? 面白いですよ。
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