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高潔な心で書かれた、崇高な文章

 木蓮の香りを思い出す。それは純文学の香りに近しい物なのかもしれない。

 本作からはキーボードの音が聞こえない。その代わりにインクを付けたペンが、ゆっくりと音を立てながら紙の上を滑るような音が聞こえて来るようだ。

 ジャンルについては好みの範疇なので何も言うまい。だがそれ以上に本作は、文章作品としての質がジャンルの壁を超越しているように思えた。

 決して軽い文章では無い。本作を読んだ時に重たさを感じる人も少なくは無いだろう。
だが、それこそが心地よく、それこそが良き文章であり、純文学作品というものなのだと自分は思っている。

 この、描写や表現の数々をインプットするまで、読者はどれだけの文字の海を泳いで来たのだろうと、想像までしたくなる程だ。

 そんな、丁寧過ぎると言わんばかりの本作は、間違い無く好む人間の目に留まりさえすれば、喜んで読まれるだろう。
それだけは、心から保証したい。

狂おしき筆の音が響く

  • 投稿者: 九藤 朋   [2023年 03月 04日 15時 43分]
さらりさらりと。筆が動く様が見えるよう。
流麗な文章は読む者をいつかの日本へといざなう。
いとやんごとなきところの少年と、その師を務めることになった青年との、心の交流。耽美で、どこか蠱惑的だ。
この作品は、ルビの多くをあえてカタカナにしてある。
情緒がある。
時代考証も実は抜かりない。
趣がある。
どこまでもいつまでも、彷徨っていたい作中世界。
気づけばあなたもきっと虜になるだろう。
ほら、木蓮の花が咲いている。
私はその後ろに狂おしき筆の音が響くのを聴く。
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