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苦く深く夜は這い寄る

  • 投稿者: 黒森 冬炎   [2021年 06月 15日 18時 17分]
同一作者に同名の詩も存在する本作は、映画のような鮮やかさ。
流れるような語りに乗って、裏町の深夜が目の前に広がってゆく。
詩と小説とでしっかりリンクしながらも、それぞれのジャンルに特有の呼吸で語る。
視点も変わるが、ラストもそれぞれに違う味わいを与えてくれる。
貧困、戦争、富国の油断、生きることの理不尽さ、したたかさ、やるせなさ。

シニカルなドラマを追ううちに、私たちは目撃者となる。
この作品を読む者は、苦く深い夜の世界にいつしか引き込まれて、まるでその場にいたかのような錯覚を持つだろう。

清逸な文体で生の泥くささを表現する巧みさは、賞賛に値する。
暗く重たいテーマを扱うのにも関わらず、優しく静かな眼差しを感じさせる物語である。
どちらが先でも良い。詩と小説を合わせて読むべきだ。

読了後、あなたは言葉を失うだろう。
沈黙のうちに、しばし瞑目するがよい。
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