イチオシレビュー一覧

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溶けることない氷柱の様に愛し続ける兄と、真夏の陽炎の様に揺れまどう妹の、禁断の香りする閉じた世界の細密画の如き愛物語

  • 投稿者: 美風慶伍   [2021年 09月 01日 20時 54分]
恋愛をテーマとして物語を描くとき登場人物の立ち位置というのはとても重要になる。熱烈に強く結びつきあい離れないか、反発を繰り返し傷つきながらも少しずつ距離を近づけていくか、その有様は実に様々だ

この作品においては二人の兄妹の絶妙な距離感が芳しいほどの香りを放って紙面から禁断の香りを読者へと伝えてくる。作者の絶妙な感性の為せる技である

兄妹が暮らす一軒の別荘、有能な執事が納めるその館の中で兄・各務は何事があってもブレることなく立ち振る舞う。対して妹・瑠偉は哀れなほどに儚く揺らめいている

兄が知的で冷静であればあるほどその振る舞いによって、妹の繊細な心はかき乱されて蜘蛛の巣の上の蝶のようにがんじがらめにされていく

『妹は恐れている。そして恋焦がれている』

二人の運命の先には奈落に落ちる運命が待ち受けているだろう
だが、その奈落に堕ちる様を見てみたいと思わせる名作である

鮮やかで華やかな苦しみの範囲。

  • 投稿者: 鈴藤美咲   [2021年 06月 17日 10時 10分]
本作品の表題に「はっ」と、息を呑んだ。
“鮮やかで華やかな苦しみの範囲”(花園地獄)と名付けられた物語の序盤は、美しい光景と重なりあった人物像の“今”が辛く、切なく描写されている。
登場するふたりの人物像が“今”に至った経緯は、物語を逐うによって明らかになるだろう。

一方、本作品で注目したのは、西洋の美術が忠実に描かれていることだ。そして、和と融けきっているのが堪らない。物語は始まったばかりだが、背景の描写が実に素晴らしい。

本作品には、まだ魅力が埋もれているだろう。
埋蔵品を発掘するように、本作品のご拝読をお薦めします。

著者、九藤 朋様。心が震える物語をありがとうございます。
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