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「俺が見つけ出すから……大丈夫だ」

  • 投稿者: 真珠姫   [2023年 05月 21日 18時 44分]
盲目の王女と戦で心身それも目立ってしまう顔に傷を負ってしまった騎士の物語。

生まれたときからかすかな光を感じるだけだった王女は先代の王の愚行の呪いと巷に噂されていることを知り、父王や母妃らの負い目に心を痛めて育つ。
眉目秀麗な騎士は負った傷に心も傷付きさらに愛し合っていた恋人に去られ心が荒ぶ。
二人が婚姻で出会い、既に達観していた王女と会話を重ねるうちに騎士の心が凪いでいくのを肌で感じる。
去らずにおれなかった元恋人の様子がポイントを押さえて描かれているところもとてもよい。
クライマックスは

「死した後、私の魂はきっとあの方を探すでしょう。けれど分からないのよ、どのようなお顔をなさっているのか」

「俺が見つけ出すから……大丈夫だ」

始まる前に大方の出来事は既に過ぎており淡々と綴られるこの物語はこの箇所のために書かれたのだと思う。
ティッシュの箱を用意してから読み始めるよう薦める。

静謐な作品が激情を秘めていないなどと誰も断ずることは出来ない

なろう作家になってしまったのでレビューは控えていたのだが、心からの賛辞と賛美を献上できる素晴らしい作品に出会えたならば、筆を止める理由にはならないと思う。
この作品の第一印象を一言で表すならば、夜の海だ。表面上は月明かりが照らす静かな海のようだが、その実情は激しい人間感情と、人間であるが故に避けられない葛藤と忌避、そして捨てきれぬ愛憎だ。直線的な表現に辟易している人ほどこの作品は刺さるに違いない。
美術品の多くはチラ見しただけでは良さが分からず、じっくりと眺めるうちに驚くほどの発見があったりするものだ。この作品はそれをほんの1,2話で思い知らせてくれる。心に"沁み込む"作風を求める人なら、是非手に取って読んでほしい作品だ。
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