イチオシレビュー一覧

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咲き乱れる狂気の花々

  • 投稿者: 三羽高明   [2022年 01月 01日 09時 17分]
広い庭付きの家に住む『おばさま』を持つ主人公。その庭にはたくさんの植物が生えており、それはそれは魅力的な場所でした。

主人公はそのおばさまの家によく遊びに行くのですが、何故かお客さんが来ている日だけは入れてもらうことができません。

不満に思った主人公は、こっそりとおばさまとお客さんの様子を盗み見することにします。そして、おばさまは庭に生えている花をお客さんにお裾分けしているらしいと知りました。

けれど主人公は、おばさまの本当の秘密には気が付いていなかったのです。なにせ、その花というのは……。

美しい花々の影に潜む静かな狂気を描くサイコホラー。しっとりとした語り口が、どこまでも恐怖を広げます。

毒か花か、何気なく読んでいただいて構わない。その何気なくが終わり、意味が理解できた瞬間に貴方の血の気はサッと引いている筈だから……

ホラー、そう一口に言っても様々な種類というものがある。超常的な心霊や魍魎のもたらす恐怖、あるいは人類の思い上がり、増上慢がとんでもない異星由来生物種による厄災をもたらすSFホラー……本作はそのどれとも違う静謐な昔語りと共に語られる動的な恐怖ではなく、静的な恐怖を主題としたホラーだ。

主人公である私が、妹と従兄弟たちと【おばさまのお庭】でどのようにして過ごしていたか、という過去語りで紡がれる本作、花がたくさんある素敵なおうち、素敵なお庭、優しくて素敵なおばさま……それでもそんな私たちが避けられるのは【おばさまのお友達が入らしているときだけ】
その時だけは私たちはお家にいることを赦されず、やがて私は子供心にその理由を察することになる……

途中までは、よくある話だとも思ってしまうでしょう。
しかしながら読み進めて本作の真の意味を理解できた時、貴方の背は言い様の無い寒気を感じている筈です……

美しい花園にひそむ秘め事

秘密を知るのは低木の下から――――


おばさまが住まう家には美しい庭がありました。
夾竹桃、鈴蘭、水仙……色とりどりの花が咲き誇る、それはそれは美しい庭です。

主人公は優しいおばさまと、美しい庭を好いて、おばさまのもとに通っておりました。

しかし、ご友人がやってこられる日は庭に入れてもらえません。子供心に、のけ者にされているようで納得がいきませんでした。

そしてある時……ついに好奇心に負けて、彼女は優しいおばさまの秘密を覗いてしまいます。

そこで彼女が知った、おばさまと庭の秘密とは?


上品な語り口と、忍び寄る不安感に似た恐怖。

毒か花か……読み終えて、全てを知った時、このタイトルにそっと息を呑むことでしょう。

幼い蕾が毒花へと花開く、その瞬間をご覧あれ。

あの夏の日。花の記憶に満たされた風景を堪能してみませんか?

この世に表裏一体といわれるものは多々あります。
まったく同じものであるにも拘わらず、ほんの僅か角度を違えて見るだけで、別のものへとその様相を一変させるのも珍しくはありません。

鮮やかな花が咲き乱れる魅惑の庭がある家に住むおばさま。
この物語の語り部である幸織は、優しいおばさまとこの庭が大好きで頻繁に通っていたのです。
しかし、来客がある時だけは、お庭から締め出されて不満を感じていました。
だから、少女はその理由が知りたくて、禁断のかくれんぼに及んだのですが……。

愛多憎生、幽愁暗恨。
人はその笑顔の下に深く仄暗い闇を抱えているものです。
良識と狂気。正道と邪道は常に表裏一体。
それは人の一生を左右するに値するものなのです。

皆様も幸織と一緒に優艶なお庭でのかくれんぼを堪能してみませんか?
そこにある真実に気付く事ができたなら……。
夏の夜の静寂に心を冷やす風を感じるかもしれません。

無邪気な花はやがて

  • 投稿者: 秋桜   [2021年 07月 11日 20時 55分]

子どもというのは無邪気さ、怖いもの知らず故に恐れを知らない。
優しく、怒らない相手には拒絶すら覚えないほどに。

遊戯に夢中になって、気づけば時間が経つのを忘れて。
それ故に時間が過ぎるに連れて────刺激を求めるように。

淡く儚さの塊とも呼べる少女。
知ってはいけないと知りながら追い求める好奇心。
いつかの日の如く、身近に潜む甘い吐息に流されて。

ムシトリナデシコというのをご存知でしょうか?
茎に付いた粘着性で虫を取り、その上では華麗に立派な撫子のような花を咲かせる。
行き過ぎた好奇心を求めた、無邪気な花はやがて────。

美しい花は。美しい花は。

  • 投稿者: くろたえ   [2021年 07月 10日 21時 50分 ()]
優しいおばさま。
いつも丁寧で上品な方。きっと所作の奇麗な人だろう。
そんな想像を膨らませる、おばさまに対する言葉が美しい。
おばさまにご友人が度々遊びに来る。
ご友人がいる時には、主人公の女の子を優先してくれない。
家にも入れてくれないようだ。

ある日、好奇心から覗いてみる。
木々の間にかくれんぼして。子供の小さな身体だ。大きくない庭でも低木の木々の中でも隠れることが出来るだろう。

思い詰めたような顔のご友人があらわれた。
少し話をして庭に出ると、おばさまは花をご友人のために摘んだ。

それは美しい花。

その意味は、訪れた友人とおばさまだけの秘密。

誰にも話してはいけない庭を大人になった少女が引き継ぐ。

美しい花。
美しい花。

そして、秘密。
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