イチオシレビュー一覧

▽レビューを書く

真夏の夜、ひとり静かに読みたい物語

  • 投稿者: Ariesビー   [2021年 08月 20日 17時 15分]
 「この世界の果てに常夜の国があります。」
と、最初の一行を読んだ時から、物語の中に引き込まれてしまった。
淡々と語られる言葉は、昔なじんだお伽話の語り口のようで、すんなりと私の脳内に入り込み、鮮やかに情景を映し出す。
 月と星を写す大きな湖。
傾いた白い柱が残る廃墟。
短い草を踏んで歩く、時を超越した魔術師とその眷属。
静かな静かな夜だけの国。
 命の気配もないその場所で、魔術師と隻腕の男が語る恋は哀しく切ない。
甘く幸せな結末は望まぬままに、愛しい者との再会を願う二人は、常世の国の風景によく似あう。
 最後まで静かに語られる物語は、蒸し暑い空気と心を荒ませるばかりの現実から私を引き離し、穏やかになだめてくれるようだった。
 この夏、私は何度もこの物語を読むだろう。
 






↑ページトップへ