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ジャンル問わず勧めたい、異国の浮遊感と、拗れた片思いの行方

  • 投稿者: 天ヶ森雀   [2019年 12月 11日 21時 44分]
この物語の舞台となるヴェイラは、アジアの小国という設定があるだけの架空の国である。
けれど一読後、賑わう街の雑踏を踏みしめたくなるし、主人公が食べられなかった屋台の料理を頬張りたくなるし、ガイドブックを片手に王宮に出かけ、クジャクのレリーフをそっとずらして秘密の抜け道を覗き込みたくなる。そんな味わい深い魅力が、この世界にはある。
最後の王となった少年は15年後、クーデターに利用されそうになり懊悩し迷走する。「王様に一番大切なものは何だと思う?」老女の言葉が胸を刺し、彼に会いに来た少女は生き生きと街を駆け抜ける。
鮮やかな情景描写と魅力的なキャラ描写は小気味よい疾走感を伴って我々読者を引きずり込み、意外な展開を経て、やがて彼らを爽快なラストへと至らせるのだ。
ファンタジーであり、スリルとサスペンスに満ち、ロマンスと異国情緒に溢れた、ジャンルを問わずお勧めしたい痛快エンタメ小説である。
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