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なにげなさの中に込められた大切なこと。良質の純文学作品です。

  • 投稿者: 砂礫零   [2021年 08月 29日 03時 30分]
大学の夏休み。帰郷しなかったルームメイトふたりが、ダラダラと 『こわい話』 を始めます。
こわい、とは言っても、正体見たり枯れ尾花、のほうで、その体験自体は大したことなく終わってしまいます。そしてその後日談が、いきつもどりつ、別の話題を急にはさみつつ、展開されていきます。

なんてことはない、大学生ふたりの会話。

しかしそこにあるのは、人が悪気なく、あるいは意識せずになしてしまう悪 ―― なにげない筆致で描かれるそれが、ざわりざわりと心に触って、いつの間にか引き込まれています。

そして、ラストで示唆される真実 ――――。

それは明確には書かれていないにも関わらず、これまでの主人公ふたりの交互の語りによって、読者が明白な事実として推測できるようになっています。

ラストのひとことまで、なにげなく、しかし大切なことが語られているのがわかる。
これぞ純文学。
大変良い作品です。
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