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軋んだ心を溶かすような

  • 投稿者: 宵凪海理   [2021年 12月 21日 01時 48分]
母が亡くなり、遺品整理に娘を連れて実家に帰った主人公。
彼女は幼少期から自分の母と折り合いが悪かった。
望んだことは「出来るはずがない」と言うし、いじめがあっても責められるのは彼女の方だった。
自分の価値を認めてもらえないことは、彼女を長い間苛み続けていた。
そしてついには、母の最期を看取る時になって。

家族関係と言うのはなにかと難しく、決まり切った形に収まるものではないでしょう。
親しく在れれば喜ばしいですが、憎しみ合っても仕方のない近い関係でもあります。
問題を解決することなく母を見送った主人公が、遺品と向き合って流した涙の意味は、果たしてどんなものだったのか見届けてください。

きっとこういう距離感もまた、家族の一つの形ではあるのでしょう。

許しの瞬間を見届けられる 「雪どけ~遺されたカセットテープ~」という文学

とかく親子の関係は難しい。なまじ身近にいるせいか、親も子も、一人の人間として互いにリスペクトしあうことが、思いのほか難しい。そもそも愛憎は紙一重であるのだ。

コロナ禍で、家族の距離が更に縮んだ2021年。流行語に「親ガチャ」が入っているのは当然の如くか。子供は親を選べないと言うが、親もまた、こうあって欲しい子にめぐり合えるかは、運次第と思えなくもない。

なろうラジオ大賞応募作品である本作は、主人公の視点で実母との葛藤が描かれている。最後の一文を読み終えたあなたは、主人公と共に泣いてしまうかもしれない。

きっとそれは、温かい涙である。

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