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日常の中に溶け込んだ狂気

人に危害を加える存在だけが狂人ではない。
他人から尊厳を奪ったり、他者の価値観を損ねる存在だけが狂っているのではない。

みずからの愛に貪欲である者こそが、実は本当の意味で狂っているのかもしれない。

誰にも迷惑をかけず、世間上では立派な整形外科医として働き、社会的な地位も確立した。
誰の目から見ても非の打ちどころのがない彼には秘密があった。
誰にも言えないような秘密である。

彼の愛は他者からは理解を得られず、狂っていると言われるだろう。

だが、それがどうしたというのだ。
自分自身の愛を貫くことで、世間の価値観に逆行したとしても、それは間違いと言えるのだろうか?

この物語の主人公は、誰にも知られることなく、ひっそりと己の愛をはぐくむ。
一体だれが彼を責められようか?

神でもない我々には、彼の愛を裁くことなど不可能だろう。

これは、狂気に満ちた純愛。
己の愛を貫く男の物語である。
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