イチオシレビュー一覧

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ゲーム制作者も知らないヒカリで物語を紡ごう

それは――役割を押し付けられし者の物語。

家族からは、貴族の令嬢という役割を。
婚約者である王太子からは、次期王妃という役割を。

そして、その世界へとやってきた“異物”からは……悪役令嬢という役割を押し付けられた女性の物語。

彼女に、至らぬ点はなかった。
自分に厳しい部分こそあったが……それでも立派な女性であった。

だが、その異物により。

あらぬ濡れ衣を着せられ。
その誇りを踏み躙られて。

そして辺境へと。
魔獣が多く生息する辺境へと追放されたその女性は……己の、いやヒトの……本来あるべき生き方を知る。

これは、一人の女性がヒトの生き方を知るまでの苦難の物語。
狂ってしまった世界の中で、自分としての生き方を、大切な人達と共に探していく……“原作”を超えた物語。

大人になった乙女ゲーマー諸氏へ~生きることは、簡単なようでいて胸を打つ

このものがたりは「その後」を生きる私たちのものがたり。
今より少しフレッシュだった頃……
オーケイ、わかります。みなまで言うな!
季節を経て関心が移っていくのですが、あれだけ楽しんだ世界観はでも身にしみこんで。

さて本作は、そのように世界観に愛着があるが単純な筋立てには倦んでいる大人になった乙女ゲーマーに、まさにイチオシの作品です。
主軸となる登場人物は、断罪された悪役令嬢。彼女のその後を、甘くないリアルを持って描く、ヒューマンドラマと受けとりました。
序盤の断罪の気持ち悪さ、転生ヒロインやそれを取り巻く人々の浮沈、易きに流れる民衆、辺境で出会う誠実。
ふられる役割は誰のものなのか、評価は誰に与えられるものなのか、正解はそこにあるのか……
抑制された文体で紡がれるものがたりは、静かに黙考する時間を与えてくれます。

人生を作り直す女性の姿は美しい。「転生ヒロインに国を荒らされました。それでも悪役令嬢(わたし)は生きてます。」という大作。

本作は一見、転生ヒロインモノ、悪役令嬢追放モノに見える。

たしかにそれは要素。
しかし、本質ではない。
一人の女性が困難と屈辱を乗り越えて、人生を作り直していく人間賛歌の物語であると思う。

主人公ミレーヌは王太子の婚約者であったが、冤罪で国外へ追放される。聖女であるのに。

ぼろぼろになった彼女を救ったのは、自身の矜持と周囲の人たち。
そして、決して若くない年齢になる頃に、訪れる運命の出会い。

本作は大作映画の鑑賞と同じような、満ちたりた読後感を与えてくれる。最後の一文まで、じっくり味わっていただきたい。
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