イチオシレビュー一覧

ストーリーを追うのではなく文章を読んでいるだけで喜びがある。そんな作品が私はじつは一番好きである。
ストーリーは知ってしまえばたちまちわかりきったものとなり、過去のものになってしまう。しかし文章の味わいは、そうはならないからだ。
ストーリーは読み終えれば既知のものとなる。文章だって、読んだ瞬間から既知のものとなって行くはずなのに、そこには既知となりきらないものがある。
それを頭に、あるいは心にとどめて、たまに読み返す。そのたびに新しい発見があったりする。
この作品は、主人公の少年が宿に置かれたパソコンに夢を見る話。100円でそれは使えるのだが、母親がそれをさせてくれない。未知なものだから夢を見る。
後半、少年はとても不思議な景色を見る。しかしそれは既知となり、慣れてしまえば、ただのつまらない景色となった。
そんなストーリーをこの作品は、既知のものとならない味わいのある文章で書き綴っている。