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切なくも爽やかな雨と傘の物語

  • 投稿者: 黒森 冬炎   [2022年 07月 31日 23時 06分]
『良かったら入っていきませんか?』

大きな黒い傘を手に、雨の町に佇む不審な男性。
彼には切ない理由がありました。
男性は白髪のある年齢。語り手は中学生です。とても自然に物語の中で明かされています。

淡々としながらもゆったりと叙情的な語りにのせて、雨模様の情景が描かれてゆきます。
言葉を交わすことなく流れてゆく街の様子が、とても優しく語られます。

胸が締め付けられるような、でも一筋の希望もあって。
悲しいのに、愛おしく、そして爽やか。
すぐにではなく、間を置いて、折に触れ、読み返したくなる小品でした。

苦しいことがある方にも、楽しく暮らしている方にも、どちらにも楽しめる作品です。読み終わった時には、慌てず、ゆったりと進む気持ちになることでしょう。

暑くて疲れがちな夏だからこそ、お勧めしたい小説でした。
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