イチオシレビュー一覧

私は、謀反者の娘。漢国の政の駒として、遠い遠い万里の果て、烏孫（ウソン）国の王に嫁いだ。
私の黒い髪と目とは、異なる色の草原の民。家畜を食し、毛皮を纏い、馬を繰る。
彼等は何を話しているのだろう、言葉は全くわからない。
王は老齢、私は形ばかりの妻。
漢族の私は、ここで、たったひとり。
帰りたい、故郷の長安へ――
優しくしてくれたのは、王の男孫、私と齢近いグンスビ。
互いに言葉を教え合い、幾度となく馬の背に乗せてもらう。
彼が草原の国の豊かな自然を教えてくれ、私はここが最果ての地ではないことを知った。
私の心は、揺れる。
私は長安へ、帰りたい、帰りたいのだ。
帰りたいはずなのに……
次第に私たちの心が、近づいていく。
私は漢族。
草原の民に教えがあるように、私には漢族の教えが、矜持がある。

――私の心は、揺れる。

小説家になろう秋の公式企画「歴史２０２２手紙」参加作品です。

５５８４字でジャンルはもちろん「歴史」。ロマン溢れる作品です。

舞台は紀元前２世紀の中国。主人公は漢帝国の若き公主（皇女）。

彼女は皇帝から命じられます。烏孫（うそん）の王のもとへ嫁ぐようにと。

烏孫は騎馬民族の住む、草原の国。言葉はもちろん通じませんし、当の王とは親子以上の歳の差。

今の国際結婚なんてものじゃありません。彼女の不安、寂しさはどれほどのものであったでしょう。

しかし、それでも人は生きていく。そして、騎馬民族も農耕民族も同じ人なのです。

シルクロードのロマンに思いを寄せながら、過酷な試練を課せられながら、真摯に生きた皇女の恋物語。あなたも楽しんでみてください。