イチオシレビュー一覧

「うつし世の月など疾うの昔に見飽きましたわ……」
　最初の一言に魅せられて、最後まで読ませていただきました。物語としては、眠れない苦悩を抱えた男と、同じく過去に痛みを抱える女が、並んで庭を眺めているというもので、二人の苦悩が徐々に明かされていきます。とにかくどこのシーンを切り取っても言葉が美しいのが特徴です。

　文字数が許す限り私が良いなと思ったところを引用します！

「美しいことが愛を授けてくれないのなら、顔も、名前も、歳も、それほど重要ではないのかもしれません……。ーー」

「ーーあるいは、刹那的に生きる上で暇つぶしのようなものなのかもしれませんが、そのどちらであっても、私はそういった生き方をしている女性が好きなのです。ーー」

――地面に落ちて弾ける。この繰り返しが、黄泉とこの世をつなぐ全てだと悟った。


　心に残る言葉が多い作品です。美しい小説を読みたい方にお勧めです！