イチオシレビュー一覧

主人公は、高校生の向井拓己君。
彼の人生観が一変したのは、ある平日の朝でした。
その日の朝から向井君は、他人の頭頂部に咲いている花が見えるようになったんですね。
咲いている花の品種も咲き具合も、人によって千差万別。
この状況にすぐさま適応出来るのは若さの特権と言えそうですが、それでも向井君には慣れない事があったんです。
それはクラス委員を務める嬉野あずささんに関連する事でした。
あずささんの頭にも花が咲いているのですが、それだけではなかったようですね。
第３回　初恋・恋愛企画の参加作品である本作は、少し不思議な日常を送る少年の初恋模様が優しい筆致で描かれた、爽やかで素敵なお話です。

　ひとの笑顔を、花を咲かせたようだと、例えることがあります。

　でも、花はきっと。

　笑いだけで咲くわけではないし。
　笑いにも、いろいろあって。その笑顔が咲かせた花は、こちらも、笑みを返したくなるようなものだとは限りません。

　でも。
　心は花を咲かせる以外にも。
　棘を尖らせたり、嵐をまきおこしたり。
　さまざまな様相を、見せるものですよね。

　だったら、私はやっぱり花がいい。

　心のどんな色が咲かせた花でも。
　そのひとの心の大地に根をはやし。心の水脈から茎へと流れ込み。心の太陽を浴びて咲く花。

　だれかと会うたびに、その花を愛でることができたなら。


　ちょっと甘酸っぱくて、じんわり、ほんわりする話です。
　お読みくだされば、あなたの心にも、なにか咲くかもしれません。